E2.3 ズームインの効果

『役者似顔早稽古』
絵師:歌川豊国〈1〉
判型:中本 1冊
出版:文化14年(1817)
所蔵:立命館ARC(白樺文庫) 作品番号:shiBK03-0051.

ここに紹介する『役者似顔早稽古』、下に参考としてあげる『絵本舞台扇』は共に役者の半身像や顔面を描いた役者大首絵である。役者の顔を羽子板や扇というフレームの中に描いており、そのフレームが画面を狭めるために返って役者の顔が大きくズームされたように感じさせる効果を生み出している。【B3役者絵本】で説明されていたように、下に紹介した『絵本舞台扇』は役者が似顔で描かれるようになった初期の作品であり、また『役者似顔早稽古』は一般の人々が役者似顔を描くための指南書であった。このような性質故に「似顔」を描くという技術を強調する必要があり、その点においてこれらのフレームはそれを実現できる最適なものだった。なお羽子板や扇のフレームは大首絵においては一般的なもので、扇については役者大首絵発達段階の作品にも扇のフレームを用いた役者半身像があることが指摘されている。また羽子板については『役者似顔早稽古』の序文に「神事行灯絵馬額あるは羽子板凧の絵を素人のゑがくに此本を拠所としてかくときは労せずして似顔の出来やすきこと手をとりて教るがごとし」とあることから、大衆でさえ羽子板に役者の姿を描くことが多々あったためにフレームとして容易に受け入れられたのだろう。(戸)

【参考作品】
『絵本舞台扇』
絵師:一筆齊文調・勝川春章  
判型:大本 3巻3冊
出版:明和7年(1770)
所蔵:Ebi(個人) 作品番号:Ebi0504

 Ebi0504

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