E2.2 ものの特性を生かす

『偐紫田舎源氏』 二十編上
作者:柳亭種彦 
書型:中本 40編160巻
出版:天保6年(1836)
所蔵:立命館ARC 作品番号:hayBK03-0644-20.

ものの特性を活かしたフレームとして遠見鏡のフレームを紹介する。これは柳亭種彦作が紫式部『源氏物語』と歌舞伎を下敷きに理想の主人公足利光氏の好色生活絵を描いた『偐紫田舎源氏』である。ここには三人の男性が描かれ中央が光氏であるが、この三人は何やら円形のものの内側に書かれている。実はこの円形、遠見鏡ののぞき穴の形なのである。この前のページでは明石の上にあたる朝霧という娘が、遠見鏡を覗くよう勧められており、その遠見鏡自体も確かに描かれている。光氏が描かれたページをよく見ると、のぞき穴に当たる円形の中の文字や波は、その外側より大きく書かれていることに気が付く。遠見鏡の拡大や覗き見るという性質が活かされた、臨場感あふれる絵になっていることが目に楽しい。このような遠見鏡のフレームは文政末の合巻にはじまり、春本などにもよく取り入れられていることから、遠見鏡というものの特性を活かしたフレームが人々に面白がられ、受け入れられていたことが窺える。(戸)