E3.6 勢いを表す効果線

『先進繍像 玉石雑誌』正編巻五
絵師:栗原信兆
判型:大本 正9巻、続5巻20冊
出版:天保14年(1843)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK01-0163.

現代のマンガでも全体的な動きの勢いや早さ、力強さを表現するときには効果線が使われる。その表現は江戸の版本にも既に見受けられる。ここに紹介する『先進繍像 玉石雑誌』は元弘3年(1333)の船上山の戦いを描いたもので、向かって右ページに描かれる名和長年はこの戦いで隠岐から遷幸の後醍醐天皇を守り、隠岐判官佐々木清高らの軍三千騎を破って建武の新政の緒を開いた。名和長年は弓の名手であり、ここでも敵を射貫いている。本書で山の上から駆け下り怒濤のごとく進撃する名和長年の姿を強調するのは、画面いっぱいに無数に交差して描かれた効果線である。動きの激しさ、勢いが視覚的に感じられ、その戦闘の苛烈さが伝わってくるようである。絵師達はこのような効果線の効果により動きの勢いや激しさを表現したのであった。(戸)