E1.3 吹抜屋台

『西行和歌修行』 上巻
絵師:菱川師宣
書型:大本 3巻3冊
出版:天和2年(1682)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK01-0102.

時空間、とりわけ空間を表現する技法として、室内の俯瞰描写において障害となるものを取り除いて内部を描く吹抜屋台という構図法を挙げる。この技法は物語の場が室内であることの多い『源氏物語』のような、細密な嗜好で情緒的・象徴的に浪漫的な題材を描く女絵において発展したと指摘される。
ここに紹介する『西行和歌修行』にも吹抜屋台の技法が使われており、建物の柱や壁が時空間を区切る役割を果たし、館の外の風景から、庭、建物内の複数の部屋とそこでの様子が一度に見通せる。視野を遮るものが取り払われ多様な空間を俯瞰できることは目に楽しく、場の奥行き感はより内側へと観覧者の視線を引きつけ、物語の重厚感をも生み出すのかもしれない。そして取り払われず残った建物がフレームの役割を果たすことになった例もある。部屋の区切りというフレームは一部屋ごとに違う場面を描くことで物語の進行を表現することができた。このような時間の表現については、異時同図法にもつながるものがある。(戸)