E1.2 異時同図法

『新☆冨士雪』 下巻
絵師:西川祐信
判型:半紙本 2巻2冊 
出版:享保中期(1730)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK02-0289.

異なる時間を一つの構図の中に描く異時同図法の作品を紹介する。この『新☆富士雪』では一つの家屋の前に、なんと親子が各二人ずつ描かれている。この話の筋は息子が見つけた蟻を父親が踏み殺してしまい、その蟻の執念が現れ父親の髪を引っ張るなど親子を苦しめるというもので、ここで異時同図法が使われた理由としては二つ推測される。一つは背景の重複による冗長感を避けるためである。違う背景の場所で行われているのであれば視覚的に新しさがあるが、同じ背景が続けばそれは失われてしまう。それを避けるために同じ背景の中での場面をすべて一つの背景の前に書き込んだのである。もう一つは観覧者に視覚的に転換のめまぐるしさとそれに伴う面白さを感じさせるためである。このように二段三段の動が一度に視覚に収めさせられると、観覧者は視覚的動揺やめまぐるしさを感じるが、それはこの場面の右ページで蟻を軽んじる態度を取る父親が左ページでは蟻の執念に苦しめられるというめまぐるしさと合致し、大きな効果を与えることになる。絵師たちは、異時同図法が単に時空間の変化を表すだけでなく、同時に転換の面白さや画面の有する疾走感を表現するという点に着目し、絵本にもこの技法を取り入れたのだろう。(戸)