E1.1 もので区切る

『西行和歌修行』巻中
絵師:菱川師宣
書型:大本 3巻3冊
出版:天和2年(1682)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK01-0102-02.

まず時空間の区切りを自然景や霞などものを描くことで区切るという方法を紹介する。この手法は絵巻においてもとりわけ古くから使われた技法で、もちろん絵本にも確認できる。ここで紹介する『西行和歌修行』では中央に描かれる大きな岩山と木々がその役割を果たす。右ページ上部で崇徳院の御陵に参る西行の姿とその景色が描かれ、大きな岩山を挟んで左ページ中央に水辺を西行が歩く景色が描かれている。ほぼ1ページに1場面が描かれ分断も可能に思えるにも関わらず、なぜもので区切る技法で2つの時空間を表現したのか。その答えの一つが、時空間の表現と共に崇徳院の性質と西行の心情を表すためだ。ここには悪霊としての崇徳院を西行が鎮魂する逸話が描かれており、崇徳院の荒々しさは御陵のある岩山の厳つさに見立てられているように感じられる。見開きを使うことで全体が広く見え、そこをぽつんと歩く西行の姿は観覧者にどこか空しさを感じさせ、それはこの場面の西行の心情と一致する。このようにもので区切るという時空間の表現技法は登場人物の性質表現やそれを感じさせる視覚的な効果をも持ち合わせていたために、絵本でも積極的に使われたのかもしれない。(戸)