E1.0 時空間の表現

 絵本には様々な時間や空間が描かれる。本コーナーでは、それをどのように区切って描いたかにまず注目したい。まず、場面・場所の間に 自然景や霞、建物などのモノを描く手法。もう一つは、これとは逆に、異なる時間を一つの構図の中に描く方法。一つの背景の中に幾度も同一の人や物を登場させて、時空間の変化を表現するという異時同図法と呼ばれる方法。さらには、 吹抜屋台と呼ばれる、室内の俯瞰描写において障害となる屋蓋や天井、さらには壁や建具などを取り除いて内部を描く方法である。
 これらの手法は絵本の元始的なものと考えられることもある絵巻においてもみられる手法である。巻物形式から冊子体へと形態が変化したにもかかわらず、絵本においても絵巻で用いられた表現技法が使われたのはその表現に有用性や面白さがあったからに他ならない。具体的には、もので区切る際に使われる自然景が登場人物の心情を表す情景描写になったり、異時同図法のめまぐるしい場面転換が内容の混乱と合致し面白さを生み出したりする例が挙げられる。
 これらの手法は、絵本の中で日本独自に発展し、単に時空間を表現するに留まらなくなる。一つは、遠近表現への応用。区切り使われた霞が景色の遠近を表現するために使われるもの。近景と遠景の間に中景の役割を果たす霞を描き、正統な遠近法から見れば不自然な位置や大きさを補完する。もう一つは、コマ表現。現代のマンガのコマ割りのような画面割りを作るもの。時空間を区切るために使われた自然景や、吹抜屋台の建物の区切りがコマの枠線に発展していく。
 これらの表現技法は、単に日本の絵本が見た目だけの美しさを持つだけでなく、ビジュアル表現が横溢するメディアとしての地位を約束する役割を果たした。(戸a.)

【参考作品】
『義経記』巻三
絵師:未詳
書型:巻子 1巻
成立:室町期年写
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcHS03-0009.