E3.1 光の表現

『絵本虫撰』 上巻
著作者:宿屋飯盛(撰)、喜多川歌麿(画) 
書型:大本 2冊
出版:天明8年(1788) 
所蔵:大英博物館 作品番号:JH152.

まずは絵本における贅沢な光の表現を紹介する。ここに展示したのは喜多川歌麿『画本虫撰』だ。題名の「虫撰」は歌合のひとつ「虫合」のことで、これは左右に分かれてそれぞれの出した虫にちなむ歌を詠み、その優劣を競う遊びのために野外に出て虫を選びとるものである。本書は虫を詠題に、当時の狂歌師30人による狂歌合を試みたもので、すべて「恋のこころの戯れ歌」となっている。狂歌を集めた狂歌本のうち、本書のように絵が入るものを絵入狂歌本もしくは狂歌絵本と呼ぶ。喜多川歌麿は天明8年(1788)から寛政2年(1790)のわずか三年の間に錦絵摺りの豪華な絵入狂歌本を7種刊行しており、本書はその最初のものである。豪華な摺りを施し、金銀、雲母摺りなど贅と美の限りを尽した多色摺り豪華絵本として時好にも適い、大いにもてはやされた。ここには蝶と蜻蛉の絵と狂歌があるページを展示しているが、蝶と蜻蛉の羽には、真珠のような光沢のある雲母と呼ばれる鉱物の粉末を摺る技法が使われている。雲母が光の当てようによってキラキラと光り、それはまるで蝶達の羽が光に透け輝いているかのようである。豪華な摺りが許された絵本ではこのように錦絵と変わらない豪華な手法をふんだんに使い、光など様々なものを描くことが可能だった。(戸)