B1.2 江戸中期の融合と画法書

『絵本通宝志』 巻八
編著者:橘守国
書型:半紙本  9巻10冊
出版:享保14年(1729)
所蔵:大英博物館 作品番号:JIB0457.

 享保年間(1716~1736)には、橘守国や大岡春卜をはじめとする狩野派の絵師らを中心とした絵手本の刊行が盛んに行われた。『絵本通宝志』もこの時期のものである。本書は狩野派に学んだ橘守国の作であるが、土佐派の画法にも取材している。同時に「絵本」と冠している通り大和絵風の画風も見られる点も、山水の描き方に関して中国画譜に取材していると思われる点もある。このようにこの時期から絵手本と中国画譜、さらには各派の画法の融合が起きたことが推測される。本書は画題に加え作画上の故実や作法などについても懇切に説明していることから、画法書に位置づけることができる。この様式を採用した同種の本は好評を博し、異本も確認できることから変更を加えながら幾度も再販されたことがわかる。これほどまでの大当たりの要因は画法書としての意識を先例から受け継いだことに求められるのかもしれない。当時この種の本には「絵本」の語が書名に用いられたものが多く認められるが、同時期・同著者の作には下に参考として紹介する『和漢新図 扶桑画譜』のように「画譜」の語を関するものもある。絵本と画譜の融合の中でも語の使い分けにはある程度意識があり、画譜のほうがより正統的なものであると考えられていたと推測される。(戸)

【参考作品】
『和漢新図 扶桑画譜』
絵師:橘守国 
書型:大本 5巻5冊
出版:享保20年(1735) 
所蔵:Ebi(個人) 作品番号: Ebi1494

 Ebi1494