B1.1 画法書の嚆矢

『御絵鑑彩色仕様』智之巻
編著者:未詳
書型:大本 3巻3冊
出版:元禄13年(1700)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK01-0165-01.

絵本は宮廷や大和絵大家のみが所有できるもので「絵本」の語ですら軽々しく使うことができなかった。「絵本」の語が初めて冠されたのは貞享5年(1688)の『絵本宝鑑』と目される。これは大和絵大家の長谷川家の絵師に描かれたからこそ「絵本」と冠することが出来た特別な例で、この後「絵本」と冠する書籍が登場するまでにはさらに時代を下らねばならなかった。また『絵本宝鑑』は絵の手本ではあるものの画題の説明に重きが置かれ、絵の手本から発展した絵の教科書とも言うべき画法書とは性質が異なる。画法書としては土佐派『本朝画法大伝』(1690)や狩野派『本朝画史』(1693)が知られるが、ここに興味深い画法書として『御絵鑑彩色仕様』を紹介する。本書は記される調合色の特色から本書は土佐派・狩野派以外の出自である可能性が指摘される。現在本書以外に確認されるのは国立国会図書館所蔵、静嘉堂文庫所蔵、萩博物館所蔵の計3件のみであり、画法部分を含む上巻を備えた完全な3巻3冊はこれが初めての確認だ。画法は上巻の前半で述べられ、ねん紙ややき筆などの道具から礬水(どうさ)引きという下準備の方法まで絵画制作に関わる様々な点について非常に丁寧に記されており、26種もの調合色について説明がある点も注目に値する。『御絵鑑彩色仕様』を初めとして、各派の画法書は17世紀後半から18世紀初め頃に制作され始めており、画法書の嚆矢はこの頃ということができるだろう。(戸)

【参考作品】
『絵本宝鑑』巻之三
絵師:長谷川等雲
書型:半紙本 6巻増補3巻
出版:貞享5年(1688)
所蔵:Ebi(個人) 作品番号: Ebi1349-03

 Ebi1349-03