E2.7 販売 現代語訳
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新作草双紙の売り出しの日には、[1]せりの者たちに[2]韋駄天様のお守りを持たせて売りに出させたところ、出来が思いのほかよかったので、売れること売れること、次々と背負ってまた店から出ていくと売り切ってしまう。一日に何度も店に戻ってまた背負って出ていき、それも韋駄天のお守りのおかげで江戸中をすばやく駆けまわったところ、行く先々の本屋の方でも、いくら仕入れてもすぐに売れてしまうので、せりの者の後をついて歩いて来て、「こちらの店に持って来て下さい」と言うので、どうにかして引きずるように帰って来ると、後から「いやいや、まず私の店の方へ先に来て下さいよ」と強く引っ張る。あちらこちらと一日中引っ張り凧というありさまで困り果てるくらいの評判ではあるが、部数はうんと多めに刷っておいたので、足の続く限り、根気の続く限りはと、江戸中の本屋へ卸して回った。
本屋の主人①「たった今店に置いていかれましたが、そのそばから、もうすぐに売れてしまいましたので、何が何でもありったけ買いましょう。こちらの店へ来て下さい。」
せりの男「それは無理無体な、先ずその手を放してくださいませ、すぐに後からおうかがいします。」
本屋の主人②「いい[3]たぼがこんなふうに引っ張るなら喜ぶのだろうが、こんな親爺に引っ張られたからといってそう無愛想にするものではない。」