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著者・絵師:十返舎一九
判型:一冊18㎝
出版:享和2年(1802)
出版者:村田屋次郎兵衛
所蔵:国立国会デジタルコレクション
資料番号:2537597
一方、草双紙を[1]綴じるのは女の仕事。これも早くは進まないだろうといろいろと工夫を考えて、その昔中国から渡ってきた七つに曲がった玉に糸を通すのに、蟻に糸を付けて穴の一方から入れ、反対側の口へ蜜を塗っておくと、その蟻が蜜の匂いをかぎつけて、だんだんと玉の中を通ってこちらの口へと抜け出てきた。これを蟻通しという。このようにしたらいいだろうと、蟻を捕えて糸を付けて草双紙の穴を通すつもりでいたが、どうもそうはうまくいかない。そこで、これはやめにして、口も八丁手も八丁という女を集め、そのような婆や嬶連中に綴じさせたので、なんとかこれで刊行予定に間に合ったようである。
栄邑堂村田屋「蟻通しのアイデアは、ちょっと[2]理屈にこだわりすぎたようだ。これは難しい。」
とじる女①「ここは[3]何も書くことがないようだよ。」
とじる女②「とんでもなくこの本は面白いよ。」
[1]草紙の背を糸でかがる仕事。
蟻通明神の故事。昔、時の帝が年齢四十以上の人を嫌って棄てさせたが、某の中将は七十に近い親を家の中に穴を掘って室をこしらえ、隠しておいた。唐の帝が日本を従えようと無理難題を持ちかけてきたとき、それを全てその親に聞いて解決した。その難題の中の一つに、七曲りにまがって中に穴の通っている玉に緒を通せというのがあったが、これも、蟻二匹に細い糸をつけ、その先にやや太い糸を結び、穴の一方の口へ蜜を塗れ、と親に教えられて難なく解決した。唐の帝は日本には賢人がいると知って、以後難題を持ちかけなかった。帝は中将に望む官位を問うと、親と住むことと答えてゆるされ、多くの人々の喜ぶところとなった。中将はやがて大臣に進み、後に蟻通の明神となった。この話は『枕草子』二四四段に見える。
[2] 本を綴じることと蟻通しとのこじつけは、洒落も落ちもなくつまらない。
[3] 絵で十分にわかるので、何も書くことがないようだ。
E2.6製本作業-4綴じ 現代語訳