E3.8 コママンガのような動きの表現

『北斎漫画』 十二編
絵師:葛飾北斎 
判型:半紙本 15編15冊
出版:天保5年(1835)
所蔵:立命館大学図書館西園寺文庫 作品番号:SB4749.

動きの表現として最後にコママンガのような動きの表現手法を挙げる。ここに紹介するのは『北斎漫画 』であり、向かって右ページを見ると、一頁が上下に二分割されている。その中に描かれるのは男が自分の顔を押しつぶしたり引きのばしたりする様子である。これは同じ男が描かれていると見られ、顔を圧縮及び拡張するという動きをコマによる分割で表現しており、またそれに伴う時間やそれを行う場所の移行まで含んでいることから、2コマ漫画に限りなく近しいものと見ることができる。『北斎漫画』は全15巻の総数821ページのうち、フレームが用いられるのは118ページと、実に14%強を占めている。そのフレームの中にはこのようなコママンガの嚆矢と見られるものもいくつか確認できる。葛飾北斎は現在の漫画に用いられるコマ表現による動きとそれに伴う時空間の推移を先駆けて思索していたのかもしれない。(戸)