E3.4 影を描くことによる光の表現

『絵本姫小松』中巻
絵師:西川祐信 
書型:半紙本 3冊
出版:寛保2年(1742) 
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK02-0227.

光を表現するものとして最後に紹介するのが、影を描くことによる光の表現だ。錦絵を初めとする比較的豪華な摺物では光る部分に着目し、その部分に金箔や雲母摺りなど贅をつくした手法を使った。しかし比較的安価な摺りではそれを使うことは難しい。しかし絵師達は「光があるところには必ず影がある」ということに着目し、豪華な摺物とは反対に、影に着目し描くという手に出た。
ここに展示する『絵本姫小松』は右ページ上に障子越しの人の影を描いている。このことは、観覧者に部屋の中が明るく外は暗い、つまりは夜の場面なのだと無意識のうちに認識させる。影絵は、現代でも手で形を作りそれを投影して遊ぶ例があるが、それは江戸時代の人々にとっても同じように身近な楽しみとして存在した。下に紹介する『和蘭影絵 於都里綺』ではまず手でつくる様々な影絵が紹介され、次ページからは人間の体全体を使ったアクロバティックな影絵が紹介される。またそのような影絵の面白さから戯画的な物にも影絵の趣向はよく取り入れられた。このように影の表現は絵本の絵師達にとっても観覧者にとっても既に身近な物であり、光とそれに伴う時間の表現として取り入れられたとしても、それを受け入れるための土俵は既に備わっていたと考えられる。(戸)

【参考作品】
『和蘭影絵 於都里綺』
著作者:十返舎一九(作)、喜多川月麿(画) 
書型:中本 1冊
出版:文化7年(1810)
所蔵:立命館ARC 資料番号:hayBK03-0674.

 hayBK03-0674