E1.5 コマ表現

『苅萱桑門筑紫☆』
絵師:未詳
判型:中本 1冊
出版:嘉永6年(1853)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK02-0133-01.

江戸の刊本には"どれだけ多くの情報を描き込めるか"に挑戦する作が見られ、それを実現するために時空間の表現技法を発展させている例がある。ここに挙げる『苅萱桑門筑紫☆』はその一例である。『苅萱桑門筑紫☆』は享保20(1735)年8月大坂豊竹座初演された人形浄瑠璃の時代物で、女の髪が嫉妬の蛇と化して食い合う話などを採り入れた内容だ。確かに右ページ中央には髪が蛇となった女性達が描かれその印象は強いが、それをより強く感じられるのはコマ割りの効果だろう。右ページは五つに画面が区切られるが、それは特徴的で斜めに枠線をとり、中央コマへ注目を集める効果を生み出している。各コマの枠線にも工夫があり、右下はもので区切る技法を発展させ山の稜線をそのままコマ割りの線として利用する。左下と中央のコマは吹抜屋台の技法が用いられているが、もはやデザイン化した枠線の役割に徹している。それ以外のコマはそれぞれの黒線枠と黒線枠の間に空白をつくっており、現代のマンガと酷似している。冊子体の本は絵巻と違いページという区切りを得たが、それは"描ける場面は大きくても見開き二ページ"という制限でもあった。その中でより多くの情報・絵を求められた絵師達は、時空間の表現で培ってきた技法を発展させ、複数の多様なコマを生み出すことで多くの情報・絵を描くことに成功したのだった。 (戸)