F1.4摺り

『的中地元問屋2巻』
著者・絵師:十返舎一九
書型:中本、2冊
出版:享和2年(1802)
出版者:村田屋次郎兵衛
所蔵:国立国会デジタルコレクション 作品番号:2537597

・「見本刷りと礬水引き」     「校合摺り」の過程を経て「主版」が出来上がると、本格的な刷りが始まる。
基本的に草双紙の挿絵は全面が黒一色だが、表紙は多色刷りを用いることが多い。なので、多色刷りの際に使われた技法などを含め、刷師の仕事内容について触れていきたい。
摺師は、版元から「校合摺り」の過程を経て出来上がった「主版」を受け取る。次に「見当て」がずれていないかなどを調べる「見本刷り」を行う。この工程を「板調べ」という。この「板調べ」により問題が無ければ、大量生産の工程に移る。まず、刷る前に和紙一枚一枚に膠と水、焼き明礬を溶かした「礬水」というものを引く。これによって、紙の表面が強化され馬連により刷っていく過程で紙がささくれ立たず、更に色も滲まずきれいにのるのである。これを「礬水引き」という。次に「礬水引き」を行った和紙と「主版」「色版」を使い数百枚、多いときは数千枚という数の草双紙を摺り上げていくのである。

・「摺る」    次に、基本製作摺り.jpg的な摺の技法にを焦点をあてて説明していきたい。先ず、主版で墨摺りを行う。この時点で白黒の絵が摺上がる。この白黒の絵を「墨摺り絵」という。色を付けたい場合は、「墨摺り絵」に彫師が作成した色版を使い白黒の絵に色を摺っていく。これで鮮やかな色を持つ絵が完成するのである。

 つまり、大きく見るならば、刷り師の行う工程は【版木に墨を乗せる→「刷毛」で色を付けたい部分全体に広げていく→「見当て」をみながら和紙の位置を合わせ上から「馬連」を使い紙をこする→完成】である。一見単純に思える作業だが、何千枚という草双紙の文字や絵の色の濃さを均一に仕上げるのは至難の業である。それに加え、この墨摺りや色摺りの過程で「ぼかし」などといった様々な趣向を凝らした刷りの技術が生まれ、版木の伸び縮みを考慮しながら見当ての位置を調整するという技術も求められる。

上で述べた技法はほんの一部であるが、ここまでが「摺師」の仕事内容であり、次はいよいよ製本の工程に移る。(ymd)