E2.9 エピローグ  そばを食べる作者

草双紙の売り出しの際には[1]蕎麦を作者に馳走して祝うことは、どこの版元でもするお決まりのめでたい習慣である。一九も、売出しの日に村田屋へ呼ばれて、蕎麦を馳走になった。

一九「何よりの好物が、いくらでも食べ放題とは。今年から私の身代も、この蕎麦のようにのびるという良いきざし、まずはめでたく[2]市が栄えた。

一九「版元もおめでたい。おいらもおめでたい、おめでたい。」

一九作


[1] 草双紙の売り出しに版元が作者に蕎麦を振舞うのを記すのは本書が初めてである。原稿料は、喜三二・春町・全交の頃までは、版元から新版の絵草子、錦絵が贈られ、また当り作(千部以上)があった時にはその作者を遊里に連れていき一夕の饗応をしたという。

[2] 昔話などの結びにつけた言葉。めでたしめでたしの意。

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