B4.4 名所に描かれる人々

『絵本隅田川両岸一覧』 上巻
絵師:葛飾北斎
書型:大本 3巻合1冊
出版:享和1年(1801)
所蔵:大英博物館 作品番号:JH441.

 名所絵には少なからず空白の部分が存在する。絵が全面に描かれている場合もあるが、空と陸との境界が絵の半分から上以上にあり、空白の部分が広がるにつれ、その風景の広がりを感じ取ることができるだろう。そのため、これまではこの空白に土地や案内、その名所の情報が記載されていたが、狂歌や俳諧が空白の部分に描かれることになった。その理由として、この時期の富裕層の愉しみは、本を出版することであった。しかし、ただ本を出版するわけではなく、お金を持っているため、売る・配布するに関わらず、本の絵を豪華刷りにした。さらにここに遊びを加えるために入れられたものが狂歌などであった。ここに展示した絵本は、絵に併せて狂歌が書かれているため狂歌絵本としての顔を持つが、墨田川という江戸の名所に沿って描かれているため、これもまた名所絵としての顔を持っている。さらにここで新たな視点を入れると、川の景色自体はそれほど変化せず、むしろ変化していくのは人々である。したがって、B4.3と同様に、名所の中に風俗が入り込んできていることになる。そうして名所絵本は絵と文字、さらにはその絵に何が描かれているかという二面から考えなければならないのである。(n)