B4.3 名所絵本と風俗

『絵本東わらは』 下巻
絵師:歌川豊広
書型:半紙本 2巻2冊
出版:享和4年(1804)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK02-0255. 

 A2.1は絵巻で年中行事が流れるように描かれていたが、月ごとに画面が切られた絵として描かれている。本書の場合、全体を見れば、絵の量よりかは文字の量の方が多く、絵は口絵のようにも見えるが、この時期の絵本には、本書のような戯文が付く作品が多い。
 名所、いわゆる建造物や景色の説明を加えた本と、名所に加え、行事とそこに生きる人々、その風俗が大きく描かれているものとでは、その場面から感じ取るものに違いがあると思われる。
 また、この時期になると、名所絵本は、現代的なガイドブックや四季報に似た要素を持ち始める。本書であれば、師走の浅草寺雷門を訪れる江戸の人々が鮮明に描かれており、名所絵と風俗絵の比率は五分といっても過言ではないだろう。このように名所だけで完結せず、名所の中に風俗・民俗が描かれるようになっていく。名所というランドマークを描くにあたり、そこに訪れる、また、そのランドマークを構成する人々の風俗と関連付けて描くことはもはや必要不可欠なものになっていたのである。(n)