B4.5 名所にある人々の暮らし

『富嶽百景』 初編
絵師:葛飾北斎
書型:半紙本 3編3冊
出版:天保5年(1834)
所蔵:Ebi(個人) 作品番号:Ebi0381.

 江戸時代における人々の富士山に対する信仰は厚く、名所といわれるものの最高峰、あるいは別格の存在として富士山があった。そんな富士山の絵を描き、名を残したのが葛飾北斎である。彼の作品で最も有名なものが『富嶽三十六景』であろう。作中には『凱風快晴』のように富士山単体で描かれているものもあるが、遠近法の利用により富士山が遠くに描かれ、近くに人々が描かれているものが多い。それは『富嶽百景』にも同様に表現されており、画狂老人期に発表されたこの作品でも富士山と人々の風俗が描かれている。また、北斎の晩年ごろから活躍している初代歌川広重は『富士見百景』で見たままの富士山を描いている。比較すると、この作中にももちろん人々が描かれているものの、北斎が描いたような人の表情や動きを感じるものは少ないように思われ、あくまでも富士山の姿を描き上げたといったように見受けられる。北斎は『北斎漫画』で人の描き方を記すくらいに人の描き方に関して人一倍敏感であったのは言うまでもない。したがって彼は、人々の風俗を富士山という名所と共にを描いたのである。(n)