F1.1 稿本と刊本

『国姓爺合戦』上巻
作者:墨川亭雪麿
書型:中本 1冊
成立:天保2年(1831)(稿本)
所蔵:Ebi(個人) 作品番号:Ebi0578.

稿本の次に校合摺が摺られ、そして刊本となるわけであるが、稿本とはどんなものなのかをここでは説明する。版元からの依頼を受け、作者が自筆した原稿を「稿本」と呼ぶ。稿本を摺った後、稿本は一度作者のもとに戻され、作者が絵師に向けて絵の部分に細かな指示を書き込む。『国姓爺合戦 上の巻』で見られるように、所々朱で絵に添えて、間違いを防ぐために文字が補記される。この朱で記されているのが、それである。そうして指示が書き込まれた稿本は、版元のもとに戻され版元が求めている作品のイメージに合っているか確認される。版元の確認が取れれば、絵師が版元の依頼を受け、完成した稿本を基に稿本の決定稿となる「版下絵」を作る。校合摺は版下を基に作られるため、校合摺の段階の絵がそのまま刊本になるのに対し、稿本の場合、まだ作者の絵であるから細かな絵の部分は指示をするので、粗描に描かれる。稿本はまだ作者による下絵の段階なので、絵を担当する絵師の意見によって刊本では絵の構図がかわっている場合もみられる。絵の構図を廻る作者と絵師の対立は、馬琴と北斎がいい例である。二人の対立はF1.2のコラムを見てほしい。また何らかの理由により、稿本が完成してから出版にいたるまで、時間を要する場合もあった。今回挙げた稿本『国姓爺合戦 上の巻』が『国性谷合戦』として出版されるまでに3年間あったことがその例である。(野)

ヘ13_02378_0185【参考作品】

『国性谷合戦』(刊本)
著作者:一竜斎国虎(画)、墨川亭雪麿(作)
書型:1冊(合6冊)
出版:天保5年(1834)
所蔵:早稲田大学図書館 作品番号:ヘ13_02378_0185.