F1.0 版本刊行から流通にいたるまで

 江戸時代の板本刊行のプロセスを、草双紙を事例にみていこう。まず、板元が企画を立て、作者に依頼をする。作者は原稿を書き、自筆の「稿本」を完成させる。次いで板元が持込んだ稿本によって「版下絵」を書上げる。その余白に筆耕が文章を清書して「版下」を仕上げる。板元の確認後、作者がこれに了承を出すと、版下を検閲にかけ、改印が押され、出版税を納めて目出度く出版許可となる。版下を板木に裏返しに貼り付け、彫師が彫る。そのため、版下は板木の完成とともに消滅してしまう。版下で現存するものは、何らかの理由で彫刻されなかったものである。彫師が校正のため、墨一色の墨摺を行い、「校合摺」は版元から作者のもとに戻される。作者は朱筆で校合し、それが彫師のもとに戻され、摺師によって版木に修正が加えられ決定版の版木が完成する。
 そして、板元の指示に従って、注文の部数を摺って、後製本にまわされ、商品として完成するのである。(野a.)