B4.0 名所絵本とは

 見聞記や道中記が、近世になり、仮名草子として出版されるようになり、地誌としての性格を持った。そこに誕生したのが名所記であった。名所記は名所紹介が目的で、本来は歌枕として有名だった場所や景勝地を集成したものである。それらの名所記は、江戸時代には寺社仏閣の旧跡や風俗の名所地の紹介に変化していき、宿案内や道順などもあったため、道中案内の傾向が加わることになった。たとえば、『華洛名所記』は、『東海道名所記』と編集方針が異なり、地図や鳥観で情報を示している、名所記というタイトルがついていても、作者や時期、描かれる場所やフォーカスしたい内容に応じて変化していることがわかる。 さらに江戸後期に『都名所図会』という豊富な挿絵と、著者の豊かな知識によって解説されたベストセラーが出て、『図会』というジャンルが確立、土地の風俗・伝承とともに、メディア性を持つ書物へと変っていく。
 こうした地誌への興味とともに名所の風景を全面に押出した絵本が、狂歌や俳句を加えて出版されるようになる。また、天保期以降、北斎の名所絵の流行とも相俟って、名所の風景を描いた絵本が残されるようになったが、風景のみが描かれるのではなく、かならず人物が描かれるという傾向があり、そこには人々の生活風俗が自然と描き込まれることになったのである。(na.)

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【参考作品】
『東海道名所記』 巻6
作者:浅井了意
書型:大本 6巻(合1冊)
出版:万治2年(1659)
所蔵:国会図書館 作品番号:京159.

【参考展示】
『華洛名所記』 
作者:池田東籬(編)
書型:横本(半紙本三切) 1冊
出版:天保頃
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcBK04-0007