A1.2 絵の教本として

『和漢名筆 画宝』 巻一
編著者:法眼周山
書型:大本 5巻5冊
出版:明和4年(1767)
所蔵:立命館ARC 資料番号:arcBK01-0070).

 「絵本」という言葉の意味は、「絵の手本」から始っている。家に伝わる秘伝の絵本は、その絵の師系を正当化するものとして機能した。絵本は、縮図や粉本の形で、伝わっていたが、それを版本にして広く披露することで流儀を広く浸透させる役割を果たした。絵は、しかし伝統的な画題を描くにとどまらず、さまざまな風俗・民俗を写すことができる。しだいに絵本という媒体が扱う対象が広がり、さまざまな事物を写し込む鏡としての機能を獲得することになる。しかし、描かれる対象物が万物に及び、さまざまな趣向を持つ絵本が出てきた段階でも、単に鑑賞するのみでなく、それぞれの絵本が享受者にとって、能動的に描く好意を導き出させる切っ掛けを用意し、描き好きな素人にとっての絵手本であり続けた。
 本書は、大坂の狩野派絵師、吉村周山による絵手本である。享保期から続く、和漢の画題の見本を示す「絵手本」かつ「画譜」の性格を持つ絵手本としては、掉尾に位置する。周山には、『和漢名宝 画英』(寛延3年(1750))もあり、これが2作目である。(a.)