A1.1 フォーマットの特性

『絵本大江山』
絵師:北尾政美
書型:半紙本 1冊
出版:天明6年(1786)
所蔵:立命館ARC 資料番号:hayBK02-0147.

 絵本と絵巻の大きな違いは、画面が四角いフレームで区切られているという点にある。物語絵巻は、詞と絵が交互に並ぶとしても、あるいは一枚の絵の幅の制限があるとしても、一紙をつなげれば幅の制約はなく自由である。絵本も、折り本であれば、二丁三丁と広げて横に広い画面を作ることも可能といえば可能だが、袋綴装や画帖装では、確実に見開きの画面しか使えず、しかも常に使える幅(高さも)は一定である。
 そのため、こうした絵本に何かを表現する場合、見開きを1単位として対象物をコマ割りにするより高度な編集が必要となる。しかし、区切られることで、前の丁、後ろの丁は、その都度隠れてしまい視野には入らず、空間・時間の区切りが必然的に生れるという特性がある。フォーマットの不自由さとも言えるが、この特性を使えば、時空間を演出することが可能となる。
 本書は、江戸期に大いに流行した源頼光らによる酒呑童子退治の物語を描いた絵本である。この場面で頼光一行は、まんまと酒呑童子を酒に酔わせて眠らせてしまい、両手足を縄で縛り付けている。次ページをめくると、宙を飛んだ酒呑童子の首が頼光の兜に噛み付いている場面となり、時間が推移しているとともに、野外に場面は移っていく。
 一方、絵巻(古法眼本系)では、切り落とされた酒呑童子の首が空中に飛上がって、口から毒を吐くが、その先には、頼光の兜に食らいついた首が描かれており、横長の画面を使った異時同図となっていて、その区切りは、畳の縁の線のみという表現となっている。一つの絵にごちゃごちゃと場面が混在して描かれ、その区切り目が曖昧となってしまう。絵本というメディアは、めくりの演出法を獲得したのだと言える。arcHS03-0010-03_04a.jpg【参考図】
『酒顛童子絵巻』下巻
絵師:狩野元信筆絵巻の転写本
書型:巻子3巻
成立:寛文6年(1666)写本の明治写本
所蔵:立命館ARC 資料番号:arcHS03-0010