D0 教養書としての絵本

 絵本は婦女幼童向けという文言が使われるものの、子どものためだけにあるのではない。絵本は視覚的な効果を以って、教養・教育との親和性が高く、大人にとっても親しみやすく、効果的な媒体である。絵本の目的には、娯楽性を挙げることができるが、本来、文字だけでもよい「往来物」や「教訓書」にも挿絵が入ることで、楽しみながら学ぶことができるようになった。
その他にも、
1,『源氏物語』や『伊勢物語』などの古典の物語をより分かりやすく、面白いものと変えることができた。
2,『百人一首』や『三十六歌仙』などに歌人の図像を載せることで、和歌をより身近にした。
3,四書五経などの漢籍や、当時流行した『水滸伝』『唐詩選』などの中国の書物をビジュアルに理解する機会を作った。

また、中国では、図入りの百科事典である『三才図会』があり、それを引継いだ『和漢三才図会』や、多くの類似「図彙」を作り出す。『人倫訓蒙図彙』は、百科事典というよりは、図鑑と見ることができる。『年代記』などにも挿絵が多用されているが、別項でもとりあげる「名所図会」も、自分ではすべてを訪れることのできない土地の景観を見る事ができると同時に、その土地土地の故事・伝説を知ることができるという点で、教養を身につける格好のメディアだった。
 こうした絵による表現が文字で書かれた情報の理解を助けることで、日本人は多くの人が広く教養を身につけることができたのである。(a)

【参考図】
『諸宗 仏像図彙』巻三
絵師:土佐秀信
書型:半紙本 5巻5冊(2巻欠)
出版:元禄3年(1690)
所蔵:Ebiコレクション 作品番号:Ebi1101