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2007年10月23日

第4回GCOEセミナー(上田学)

「映画常設館の出現と都市の変容」

【発表要旨】

 本発表では、はじめに本研究の位置づけについて、初期映画研究と日本映画史研究の二つの側面から述べ、さらに映画常設館を分析することの意義について、それが都市において人々を集積する回路であり、また新たな映像経験を創出する装置であったことを示した。

 つぎに、具体的な事例として、これまで発表者が分析してきた東京の映画常設館を取り上げた。そして、明治四〇年代の東京において、映画を興行する空間の中心が、日本橋区や京橋区などの都心の劇場から、浅草公園六区の映画常設館へと移動する状況にあったことを指摘し、それが映画観客層の変化と結びついていたことを、東京東部における都市下層民の増加との関連から示した。さらに、劇場と映画常設館との空間的な連続性を、電気館、三友館、千代田館の内部空間から考察した。

 続いて、マキノ・プロジェクトで作成中である映画館チラシのデータベースを、京都の映画常設館に関する個人研究で、どのように活用しうるのかについて示した。具体的には、このデータベースを通じて、上映作品名、ジャンル、入館料などの項目の偏差から、新京極と西陣千本という、二つの興行街の差異を明らかにしうる可能性があると述べた。

 最後に、このデータベースが、映画史研究において、(1)上映コンテクスト、(2)日本映画史資料、(3)映画草創期、という三つの点に関する有効性をもっていることを指摘し、発表を終えた。



【討論要旨】

①映画館チラシのみのデータベースでは、映画のコンテクストを分析する手段として不十分であり、同時代の映画受容に関する新聞資料など、さらなるデータベースの拡充が必要ではないか。

→新聞資料によるデータの充実は今後の課題としたい。なお、映画受容については、観客が記述したテクストを分析するだけでは観客論として十分ではなく、データベースによって、上映作品名やジャンルの地域的偏差を分析することで、あらたな視座を生みだすことができると考えている。

②映画興行を分析するためには、映画以外の諸芸能との関連や、映画館チラシを読み解く観客のリテラシーなども考察すべきではないか。

→映画草創期における映画と諸芸能との関係は、現在の映画史研究における課題でもあり、私自身も関心をもって調査している。観客のリテラシーに関しては、確かに不可欠な視座であり、映画館チラシに描かれた図版などの情報も、あわせて考察することが必要かと思われる。

③データベースの項目が現状のままでは、他のデータベースとの共有化ができない。データベースの有効性を把握した上で、あらためて項目を設定すべきではないか。

→データベースの項目に関しては、現状では共有化のためには不十分であり、今後さらに改善していきたい。

④興行の宣伝を目的としたチラシと、興行の番組表であるプログラムとの区別など、資料の機能や形態について、より慎重な分析が必要ではないか。

→発表内で「プログラム」と「チラシ」という言葉を使い分けたのは、前者は当時の資料に書かれている表記であり、後者はこれらの資料を示す現在の一般的な呼称だからである。ただし、「チラシ」という呼称については、その機能性を考慮しつつ、今後さらに適切な表現を模索したい。

⑤興行街を、より広域な地域文化のなかに位置づけて分析すべきではないか。

→今回の発表では、都市のより広い文脈のなかで、興行街が機能していたことを十分に示すことができなかった。ただし、地域文化の性格から興行街の特性を定義するのではなく、むしろ興行の内容から興行街の特性を明らかにしていくことで、映画常設館の登場に新たな意味を与えられるものと考えている。

コメント(1)

當山日出夫 : 2007年12月 6日 20:58

別に、上田さんの御発表を無視しているのではないのですが、映画史研究ということでは、大矢さんの御研究と重なっています。そちらのコメントが、ここにも、そのまま当てはまってしまう(と、私は思っています)ので、なんとなくですが、大矢さんの方に書き込んでいます。

さしつかえなければ、上田さんのご意見など、大矢さんの方への、コメントとして、書き込んでいただけると、映画史研究の方法論や資料論などについて、一緒に考えることができると思います。

同じ、GCOEのブログの中ですから、自由に、行き来すればいいと思っています。

當山日出夫(とうやまひでお)

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