1.3五番立TOP

●忠度(ただのり)

UP0915S.jpg[あらすじ]
藤原俊成に仕えていた家来が俊成没後、旅の僧となり西国行脚の旅に出て、須磨の浦に辿り着いた。そこに一本の桜の木があり、僧が眺めていると、薪を背負った老人が歩いてきた。薪には山で折ったであろう桜の一枝がさしてある。その桜を手に取り、老人は桜の木の下で手向けをする。旅の僧がその老人に一夜の宿を乞うと、この桜の下ほどよい宿は無いと言い、平忠度ゆかりの地であることを説明した。そして僧に忠度の弔いを頼み、自分が忠度の霊であるとほのめかし静かに消えていく。
夜、桜の木の下で寝ていると忠度の霊が武人の姿で現れた。『千載集』に入れられた自分の歌が朝敵として「読み人知らず」とされたことを嘆き、作者名をつけてくれるよう俊成の子、藤原定家に訴えるよう頼むのである。話は一ノ谷の合戦に移り、岡部六弥太と組み合い討ち死にした事などを物語る。最後に僧に自分の回向を頼み消え去っていく。
[場面解説]
 「詠み人しらず」とされてしまった忠度の歌は、「行き暮れて 木の下蔭を宿とせば 花や今宵の 主ならまし」とあり、この場面は、まさにその歌をしたためた短冊を手に、感慨深く詠むところである。地謡が上の句を謡い、またシテが下の句と共に「忠度と書かれたり」と謡い、短冊を見つめる。この能のエッセンスが集約された場面である。一の谷の合戦の有様を勇ましく舞って見せるなど、修羅風をそなえつつも、忠度の歌への思いが曲全体に綴られている点から見れば、武人としての忠度というよりも歌人としての忠度に焦点を当てている。
この作品は、能舞台での演能の一場面を切り取ったものではない。むしろ忠度という人物に焦点を当てており、また画面左側には花を咲かせた木が描かれ、忠度の歌を視覚的に表現したものとなっている。伸びた花枝の下には、白抜き文字で歌が書かれているることからも、この作品は忠度の「歌」を主眼においた描き方をしているといえよう。