1.1翁 ⇒TOP
●翁(おきな)
翁の舞である。この翁が纏っている装束は、翁烏帽子に翁狩衣、そして指貫である。とりわけ狩衣は、蜀江文様と決まっており、他に例は無い。 今日における「翁」は正月や祝賀、記念能などの番組の冒頭で演じられ、特別な祝いの場で我々は見ることが出来る。老体の神が祝福をもたらすという民俗信仰に関係し、子孫繁栄、天下泰平、国土安穏、五穀豊穣を祈る。 翁は別名「式三番」と呼ばれ、父尉、翁、三番猿楽(三番叟)の3演目を指す。面そのものが神体とみなされ役者は舞台でそれぞれ父尉、白色尉または肉色尉、黒色尉の面をつける。現在の上演では父尉を省略する形が一般的で翁は能役者、三番叟は狂言役者が演じる。「翁」は農耕との深いつながりがあり、また農村で生活をしていた庶民の風景を彷彿させる要素もある。
●二人翁
●三番叟・千歳
●翁式三双図
[場面説明]
大判三枚続きの画面を使い、翁の舞を舞台全体で見渡している。向かって左側には、舞台の常座奥に下居する三番叟をとらえている。三番叟の他には、囃子方や後見、地謡が見える。翁の舞では大鼓は演奏しないため、床几にはかけず、三番叟と同様に下居して横を向いている。
中央の翁太夫が纏っている装束は、翁烏帽子に翁狩衣、そして指貫である。とりわけ狩衣は、蜀江文様と決まっており、他に例は無い。有名な「とうとうたらり」のくだりであるが、観世・金剛の二流は「とうとうたらりたらりら」、金春・喜多流は「どうどうたらりたらりら」、宝生流は「とうどうたらりたらりら」と謡い方に違いがある。
やがて千歳の舞となり、それに続く謡や翁の舞の後、「千秋萬歳の喜びの舞なれば 一舞舞はう萬歳楽 萬歳楽 萬歳楽」という謡で終了し、三番叟に変わる。
向かって右側には、面箱と後見、そして千歳が下居している。この千歳の着けている千歳直垂は、通常の切金文様に鶴亀をあしらったものではない。鶴亀は見えるが、切金文様ではなく笹が描かれている。
内には亀甲文様の厚板を着用しており、吉祥に満ちた意匠が多く、装束から見ても祝言性の高さがうかがえるのである。