2012年3月13日

国際GISセミナー: GIS and Digital Humanities

 3月13日(火)に立命館大学歴史都市防災研究センター・カンファレンスホールにて、国際GISセミナー「GIS and Digital Humanities」が開催されました。講演者として、英国St.Andrews大学よりA. Stewart Fotheringham先生、台湾Soochow大学よりC.S. Stone Shih先生をお招きし、それぞれの先生が取り組んでおられる研究テーマとDigital Humanitiesとの関連性についてお話いただいきました。

 一人目の講演者であるA. Stewart Fotheringham先生は、ジオインフォマティクスセンターの所長を兼務されており、計量地理学・ジオコンピュテーションの立場から1845年から49年にかけて起こった「アイルランド飢饉」に関する人口推移や社会-経済的状況に関する分析についてお話されました。

  Fotheringham先生は、まずカルトグラム(統計データに基づいて地図を変形させ、視覚的に空間的特徴を表す方法)や統計地図を通じて1841年から現在に至る人口推移を説明し、オンライン歴史アトラス(NCG Online Atlas Portal)について紹介されました。また、飢饉に伴う人口減少については幾つかの要因の存在が考えられることから、1891年当時の選挙区に関する境界データを用いた、ミクロな空間分析の結果を解説されました。ここでは、ミクロな空間単位での地域明らかにする手法として、GWR(Geographically Weighted Regression)を用いることで、新たな知見―飢饉を引き起こす影響は全国的に一定でないことや、ミクロな単位での地域的差異―が明らかになったことについて述べました。

 二人目の講演者であるC.S. Stone Shih先生は、社会地理学とGISの観点から1930年代~1960年代における台湾での「演歌スタイル」の音楽にまつわる文化空間について紹介しました。Shih先生は、Center for Social Geographic Information Systems(CSGIS)の重要なコンセプトとして、Social GISというモデルを立ち上げ、社会空間の分析にあたって定量的なデータとともに定性的なデータ(フィールドワークやインタビューに基づくもの)の重要性を述べました。

 演歌スタイルという日本の歌謡曲を模した音楽が流行した経緯を紹介するとともに、台北の代表的な3つのストリートでの音楽産業やホールなどの分布を通して、当時の街路の状況を復原した様子、あるいは1937年以降の太平洋戦争に伴う街での騒乱について解説されました。こうした、台北をめぐる社会および文化をめぐる空間変容について、Shih先生は地図・写真・音楽・インタビューといった様々な資料が活用可能であることを述べました。

 お2人の講演は、使っている分析手法や対象こそ異なるとはいえ、地域の様々な種類の資料をGIS(地図的な分析)で検討し、その要因や背景についてミクロな空間に着目する点で共通しているといえるでしょう。また、分析に用いた歴史的資料や統計データのデジタル化を重視することで、例えばアイルランドの歴史地理を外観できる歴史アトラスや、台北音楽に関するオンラインミュージアムなど、社会や文化をめぐる地図や仮想空間によるアーカイブ発信を行なっている点で、対象についての門戸を広げ学問分野を横断した議論の基礎的な資料にもなっているといえるでしょう。

GISandDH.JPG

(記事:瀬戸寿一)

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