- 日本文化研究班
2010年6月13日
第12回国際浮世絵学会で発表しました。
日時:2010年6月13日
場所:学習院
発表者:松葉涼子
「門破り図の系譜-燓噲門破り図の成立過程をめぐって-」
Iconographic Transformation of the “Breaking the Gate” Scene: How did Fan-kwai Come to Break the Gate?
【発表要旨】
門破りの図様は、朝比奈門破りがもっともよく描かれており、『看聞御記』(1416-1448)によって古くからすでに絵画の主題となっていたことが知られている。近世では武者絵本や武者絵の画題として描かれる一方で、門を押し破るという印象的な場面は、能、歌舞伎、浄瑠璃といった演劇にも好んで取り入れられた。浄瑠璃が初演で、浄瑠璃、歌舞伎ともに演じられている「和田合戦女舞鶴」では朝比奈の役を女性の板額に置き換えて、「板額門破り」として演じられている。
また、漢初の功臣で、高祖・劉邦の臣下であった燓噲は、鴻門の会にて項羽に見え、危機にあった主君劉邦を助けるために門扉を押し破って敵方の宴席に乱入する。それは「鴻門の会燓噲門破り」として武者絵の題材にも採られた。「鴻門の会」の場面は中国の通俗小説『西漢演義伝(西漢通俗演義)』を訳した『通俗漢楚軍談』(1695)が好評を博したことによって知られるようになったが、原典には鴻門の会に燓噲が門を破ったという記述はなく、挿絵にも描かれていない。ではなぜ日本で燓噲門破りの図様が描かれるようになったのか。その原因は『通俗漢楚軍談』の訳文にあることがわかった。
本研究は、門破り図の系譜を版本、浮世絵などから辿り、その変容を指摘するとともに、中国原典の誤釈によって生まれた燓噲門破りの場面が、古くからある門破りのイメージを摂取し、独自の画題として成立した過程を考察する。以上を通して共通する背景をもった図様同士の影響関係についても考えてみたい。
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