C3 常磐津正本

 常磐津節は、浄瑠璃と呼ばれる三味線音楽の一種目です。歌舞伎の舞台を中心に発達し、現在もたくさんの曲目が演奏されています。

 常磐津節の演奏・稽古・鑑賞に役立てるため、その詞章を木版印刷で出版したのが常磐津正本です。

 常磐津正本は、常磐津節の創流(1747年)頃から昭和50年代まで、様々な形態で出版されました。その出版は、先に成立していた浄瑠璃諸派にならい、また、歌舞伎と常磐津節の新たな展開に即して、次の2形態を中心に活発に行われました。

 ①歌舞伎で初演された詞章を速報する「薄物正本」。

 本文と同じ料紙の表紙に常磐津節の演奏者名、役者の絵姿のほか、振付師、作詞を行う狂言作者など、舞台関係者との提携を意識して、関係者名を配し、半紙本あるいは大本2~4丁ほどを紙縒り(こより)で綴じたもの。常磐津創流期から明治初期まで出版。

 ②常磐津節の稽古の便宜をはかるための「稽古本」。

 歌舞伎初演後、愛好者や門弟が役者のセリフとともに常磐津節を稽古できるよう、詞章にセリフを織り混ぜ字体を大きくしたもの。半紙本で5~10丁ほどを1冊とし、題簽を貼った簡素な表紙と半丁の奥付をつけ糸綴じで装丁。明治初期以前は表紙の特徴から「青表紙」と呼称。明治中期以降の再版・再刷本は常磐津宗家紋を意匠にした表紙。創流期から昭和50年代まで出版。

 なお、明治中期以降の初演曲の正本は、①②の形態と区分を廃し、自由な装丁で表紙に多色刷も使用。

 竹内文庫の常磐津正本は、幅広い時期の本が標本の如く遺り、その所蔵点数は世界一を誇ります。特に②については、改装された再版本が多いとはいえ、1書目につき多数の版・刷の諸本が遺ることが特色です。常磐津節が長い間、いかに多くの人々に愛されてきたのか、常磐津正本および竹内文庫の存在によって客観的な考察ができるのです。(竹内有一)

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