劇場音楽は番付や正本の類に記録があるので、情報はかなり正確に知ることが出来る。しかし具体的にどのような劇場で、どのように演奏していたのか、実状はわからない。それに注目して集めたのが次章の「出語り」図であるが、これは一部分である。やはり劇場全体を知りたくなったのが出発点だった。劇場建築の研究はあるが、演奏家や客席のようすは、たとえ「絵空ごと」であっても、数多く見ていれば自然にわかってくるようである。ごく初期の絵巻物や屏風絵などは複製で見ることはできるが、これらは手に入れられない。新しいものをわずかに入手したが、明治以降のものには興味をひかれた。劇場の外観図には文明開化の雰囲気がしのばれる。