C2 義太夫正本

 義太夫節は、人形浄瑠璃、人形芝居の舞台を中心として演奏される日本の伝統音楽の一つです。その詞章は、木版印刷で出版されました。
義太夫節の浄瑠璃本には、作品の本文の収録の仕方が異なる三種があります。五段続の時代物の一作の上演時間は早朝から夕方まで。その一作品の全文を収録した本を、
 ①丸本・通し本
といいます。この全文からある小段を抜き出した本を、
 ②稽古本・抜き本
といいます。また複数の作品から、道行・節事・景事を寄せ集めて大冊にした本を、
 ③段物集・道行揃
といいます。
 初期のころ人形浄瑠璃の音楽の伝習を望む素人たちへは、道行や節事などの優れて音楽的な、短い部分だけが公開されました。劇の部分である段物の稽古が許されるようになるのは、ずっとのちになって、18 世紀後期に起こった変化です。
 初期の道行揃(竹内文庫では8 冊)のほかに、当時「道行本」と呼ばれた、前表紙1丁、本文2丁から成る薄い冊子が多く遺る点が、竹内文庫の特色です。
 近松門左衛門の世話物『心中二枚絵草紙』の冒頭には、『用明天王職人鑑』の初演興行の芝居前の様子を「菓子に火縄に番付と。売る声にまで節こもる竹の紋付く道行の。本を召せ」と活写します。座紋のついた道行本の数々が、竹内文庫に遺るのです。
 抜き本が段物を載せるようになった当初には、初期の道行本が薄物であった規格に準じて、一段を上下、上中下に分冊する本が行われました(09-2216-07 は忠臣蔵九段目を三分割しています)。一段を一冊に収めた大坂板五行本が標準となるのは19 世紀以降のことで、18 世紀後期のバリエーションに富んだ抜き本が多いのも竹内文庫の特徴です。(Kōzu)