歌舞伎十八番「勧進帳」は天保11年(1840)3月、江戸河原崎座で初演された。三世並木五瓶作。四世杵屋六三郎作曲。四世西川扇蔵振付。弁慶=五世市川海老蔵(七世団十郎)、富樫左衛門=二世市川九蔵(のち六世団蔵)、源義経=八世市川団十郎。
本作についてはそれこそ汗牛充棟、研究書も多いし、またよく上演されるので知らない人はいないだろう。ドラマとしてもよく出来ているが、私が魅かれるのは長唄が名曲であるからで、いつ聴いても面白い。ただし長唄といっても、実際は竹本と同じ役割をしているので、これを長唄と記すのは苦しい。もちろん役者のセリフを省略した長唄だけの演奏でも、楽しむことができるのはそれだからであるし、面白いのである。繰り返すが傑作だと思う。近年では三世杵屋五三郎(1918~2015)の名演奏が忘れられない。
[参考]竹内進敬著「長唄『勧進帳』正本研究」(『近世邦楽考』南窓社、1998)