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2007年02月28日

墨は何からできている?

離解した後の繊維がうすい墨の色をしていることから
墨がどのように紙にくっついているのか不思議に思いました。
自筆の書の表装をするとき、表具やさんに
「ちゃんと墨すったね?墨液で書いたものだったら滲むことがあるからね」
と言われ、それまで墨液は墨+水だと思っていた私は、
墨に違いがあることを知ったのでした。
では版本の墨は何からできている??
まず墨の成分から調べました。

固形墨…膠、松煙/油煙

墨液…膠/ポリビニルアルコール、カーボンブラック、エチレングリコール、
     防腐剤、香料、水

この2つは容易にわかりました。
しかし、版本の墨がわかりません。
どこにも書いていないんです。
浮世絵の墨はわかったんですが↓

地墨…油煙、膠、水

艶墨(頭髪などに用いられる)…油煙/松煙、水膠、姫糊(米)

以上の2種類がありました。

しかしなぜ版本の墨はメジャーじゃないのだろう?
調べ方が足りないので、さらに調べてみます。

2007年02月27日

乾燥後

離解したものを乾燥させたら、
             こうなりました。 

  

どちらが水だけで離解したものかわかりますよね?
字がそのまま残っているのが見えます。
でも今の再生紙は、字は残っていないし、こんなに黒ずんでいない。
どうやっているんだろう??

  濾紙

  便箋

  なんとこれ新聞紙!

崩れやすい手すき和紙という感じですが、何かに似ている…

洗濯機のゴミとりだ!

2007年02月26日

補修現場

今日は、補修作業の撮影がありました。
今春の入学式にアート・リサーチセンターの紹介ビデオが流れるそうですが、
何秒か私たちの補修の様子も出るみたいです。
補修のアルバイトは、私を含めて全部で4名います。
皆女の子で、和気藹々とやっています。

外部から見学に来られた方が、よく技術の細かさに「すごいねー」と感心されますが、
実は、この補修作業はすごく簡単です。
糊や水の調節さえ間違えなければ、誰にでもできます。
(向き・不向きはあるかもしれませんが)

「すごい」のは、こうやって、普通だったら触ることの出来ない貴重書を
私たち学生が補修できる環境があることだと思います。
研究のためのデジタルアーカイブの全行程に、学生が携わることができるのが
アート・リサーチセンターのいいところ。

2007年02月25日

離解して遊んでみる

22日の実験の続きです。
他にもいろいろな紙の離解を見てみたい!

 今度は、濾紙と和紙らしき便箋と新聞紙を用意して…

 同じように、1ℓの水酸化ナトリウム水溶液に浸して、
                      時間をおきます。

  ミキサーを15回した後。

  さらに30回した後。

  濾紙は、淡雪みたいです。きれい。

  新聞紙は、繊維というより、粉々になりました。             

  ずっと置いておくと、このような状態になりました。
                          紙によって変わりますね。
                          この違いは??

2007年02月24日

修理に出すこと

携帯が壊れたので、修理に持って行った。
お店の人に「あちゃー水没したんですねー」と言われ、「すいません」としか言いようがなかった。
「壊れた」のではなくて、「壊した」と言うべきだった。
扱い方が悪かったのが店に露呈したわけで、恥ずかしい。

そしてふと思った。
修復業者さんも「扱い方悪いなぁ」と思ったりするのかな?と。

修復に出すということは、経年変化以外に
つまりは管理の仕方に問題があったからなのでは?
それって恥ずかしいことだ。
私も、堂々と修復を依頼してはいけないなぁと思う。

携帯は修理するより機種変更したほうが安かったので、変更した。
大切な作品は、そうそう「機種変」できるものではない。

2007年02月23日

大変だ!

西鶴・近松に危機迫る、大阪・中之島図書館の空調故障という見出しで
読売新聞に出ていました。→記事全文
12年間、温度や湿度が上がったり下がったりを繰り返していたのか。
故障に「気付いた」のが12年前であって、「故障した」のはもっと前かもしれない。
気付かない場合もあるから、うちの大学のも気をつけておかないと。
記事に
このため、府に空調機更新費として1350万円を予算要求しているが、
府は「優先順位が低い」としており、新年度予算にも計上していない。
とあります。きっと、これらの貴重書の劣化が進むことが、将来
図書館や府や日本や世界などなど…にどういう影響を及ぼすか
想定してのことでしょうけれど、

こうやってマスコミに取り上げられることで府のお偉方の意識も少し変わるのかしら。
それともハンカチくわえて予算が下りるのを待っていないで、他に対策があるのかな?
建物も周りの雰囲気も大好きな図書館だけに、かなり残念なお話です。
記事にある総合資料館より、HPは好きだったりする。おおさかページ

2007年02月22日

離解を理解しよう!

和紙が一枚あるとします。
「この紙の繊維を一本いっぽんバラバラにしてください」と言われたら
どうしますか?
ピンセットで繊維を一本ずつ取り出して、「○億本ありました」!って
数える時間があればいいですが、そうもいきません。
ところが、簡単に一本一本にできるんですね~ 
それが「離解」です。

  版本を半丁ずつ2つに分けます。


 
2つのビーカーにそれぞれ1ℓの水(水道水)を入れます。
右のビーカーには水酸化ナトリウムを加えたもので、アルカリ性を示します。              

  それぞれのビーカーに版本を入れ、1時間ほど置きます。

  1時間半後、ミキサーに移し、攪拌します。

  ミキサーを45カウント回した後。随分様子が違います。
 水(左)のほうは、繊維がまだ固まりになっています。
 水酸化ナトリウム水溶液(右)のほうは、繊維が大分バラバラのようです。


←水  ←水酸化ナトリウム水溶液。
                                          ドロドロしています。
                                          ネリが入っているみたい。

紙を一定量の水に投入して攪拌し、繊維をバラバラにするのが離解。
紙漉きの逆の工程ですね!
これを漉くと、漉き返し紙になります。
昔の漉き返しは、
水に浸け置いた古紙を叩く方法と灰汁で煮沸する方法があったようですが、
原理は前者が上の実験の左で、後者が右と同じです。
「薄墨紙」と言われていたのがこれを見ると、その名の通りだなと思います。
また、ムラになっていることから「水雲紙」と言われていたそうですが、
水だけだとムラになるんだなということが、これを見るとよくわかります。

   こんなになりました。

2007年02月21日

しわ伸ばし

昨年の話だが、カリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館所蔵の
双六をデジタル化することになった。
A3サイズから新聞紙見開き2枚分の大きさまで様々で、全部で152枚ある。
撮影にあたって、しわのひどいものはしわ伸ばしをする。
ただし、明治以降のものがほとんどで、水を用いたフラットニングはほぼ不可能である。

  スポットテストをするまでもなく色が落ちそうだ。

業者さんに相談して、フラットニングの方法を教わった。
・全体的なフラットニング
 (ドライと、色が落ちないものに対しては少量の湿気によるやり方)
・部分的なフラットニング
・撮影時のサクションテーブルの使い方

今回のように100枚以上になると、一枚一枚に対して無計画に処置していたのでは
時間も場所も足りなくなる。
まず、①何もせずに撮影できるものと
②撮影時にサクションテーブルに吸着させてしわを一時的に伸ばせるものに分ける。
サクションだけではしわが伸ばせないものについては、③部分的にしわを伸ばすものと
④全体的にしわを伸ばすものに分けた。
作業ごとに分類することで、大量にある双六の
撮影までの作業計画が立てられるようになった。
料理作るときも、これをやっている間にこれをやって…と計画を立てるのに。
基本中の基本のことだけど、今までできていなかった。
これから大量の処置をする場合には、こうしようと思う。

 

2007年02月20日

修補と補修

遠藤諦之輔さんの『古文書修補六十年』を読んでいてふと思った。
私はいつも「補修」と言っているけど、「修補」とどう違うの?

『日本国語大辞典』(小学館・2001年)で調べてみると、
「補修」は、いたんだ部分を補いつくろうこと。手入れすること。
「修補」は、つくろいおぎなうこと。足りないところや欠けているところを
                  おぎなってよくすること。修理。補修。しゅほ。

とあった。
他に、似たような言葉で
「修復」は、つくろい直すこと。修理して元の形にもどすこと。しゅふく。
「しゅふく」は、つくろい直すこと。破損した箇所をつくり直すこと。修理。修繕。しゅうふく。
「修理」は、こわれた所や悪い所をつくろいなおすこと。修繕。修復。
「修繕」は、損じたり悪くなったりしたところをつくろいなおすこと。修理。修復。しゅぜん。

どれも似たような意味である。使い分けされている理由はないのか?と探していると、
『防ぐ技術・治す技術 : 紙資料保存マニュアル』 (日本図書館協会・2005年)に
『ALA図書館情報辞典』だけが、補修の項目を採録し,以下のように定義している。
「材料の取換えや本体の表紙からの分離を伴わない。
図書の小規模な修理、修繕のような完全な再生ではない。」
とあり、「修繕」については
「使い古された図書を部分的に修復すること。修繕に要する仕事量は再製本より少なく、
補修より多い。修繕は、表紙の修復、のどの強化といった作業を含む。
補修と混同しないこと。」
と定義されているそうだ。

そして、1986年に刊行された『IFLA資料保存の原則』に記載の
修復(restoration):経年、利用等により損傷した図書館・文書館資料を技術系職員が
            修補する際に用いる技術と判断。
を挙げている。

これによると、概念としては、
再製本>修繕>補修
修繕>修復>修補 
ということはわかるが、
「補修」と「修補」の違いはわからなかった。
みんな、これらの言葉をちゃんと意味がわかって使いわけているのかなぁ?
誰か知っている方がおられたら、教えてください。

2007年02月19日

水を含んだ文字は大きくなる?

水に濡らした紙は大きくなる。
ということは、そこに書かれている文字も大きくなる??
だったらそれを見てみたい。

マイクロスコープで140倍に拡大しても全体像が見えるような
小さな文字が書かれている紙を4種類用意しました。
25mm四方に切って、30分間水に浸します。

       

それぞれの紙に書かれている文字の中から、全体像がわかるものを選んで観察します。

元の状態                  30分後の濡れた状態
 → 

 → 

 → 

 → 

結果…大きくなったかどうかわからない。

やり方が間違っているのか?
いろいろと考えたら、実験をする前に私にはこの変化を計算式で出すことができたのです。

以前、方眼紙の伸縮を見ました。
そのとき、220mmのものが、227.5mmになりました。
伸び率は、1.03倍。

今回は和紙がありますが、それでも25mm四方のものは25.75mm四方程度にしか
ならないのです。
それに書いてある1.5mmほどの文字の変化なんて、
マイクロスコープで見てもわかるはずがありません。

今回の実験は、失敗。
方法に問題がありました。
次は方法を変えてチャレンジします。

2007年02月18日

触らぬ紙に祟りなし?

昨日、浮世絵裏面に書いてあった番号の耐水処置をしたわけですが、
もしあれがただの番号ではなくてジョン・レノンのサインだったら、
あの浮世絵の価値はあがるのかな?

耐水処置をしましょうとなれば、NGが出るかもしれない。
浮世絵を重視するか、サインを重視するかは所有者によって変わると思うが、
クリーニングそのものをする必要がなくなるかもしれない。
シクロを塗ったら、サインの価値が下がる可能性だってある。

そもそも、資料に何か手を加えるだけで価値が下がってしまう。
例えば100万円の価値のある資料を、30万円かけて修復したとする。
資料的価値は上がるかもしれないが、資産価値は130万円になったといえるか?
逆に100万円よりずっと下になってしまう。
不思議だなー  

2007年02月17日

インクの滲み止め

                    今日の私。


ベオグラード国立美術館から、浮世絵のクリーニングを依頼されました。
クリーニング自体は、業者の方と相談してそちらにお願いすることになったのですが、
問題は、水で洗浄すると、浮世絵の端っこに水性ペンで書かれた整理番号が滲むこと。
そこで、別の業者さんに何か滲み止めができるものはないか尋ねると、
シクロドデカンという薬品を教えていただきました。
   気になる点をテストして、これを使うことに決めました。

今日は業者さんの御指導のもと、その滲み止めの処置をしたのです。
吸入すると危険なので、防毒マスクを着用します。それが上の写真です…。

 約60度以上で融解させ、水性ペンの部分に塗布します。

 すぐに乾いて固化します。

ロウでコーティングしたような感じです。
この部分だけ固定され、耐水できるのです。
その代わりこの部分だけはクリーニングできないので、まわりとの色の差が出るでしょう。
(水洗浄が終わった後、乾燥させて、薬品を昇華させます。)

資料への影響は全く無いとは言えませんが、今のところ大変有効な処置です!
便利な薬品がまだまだたくさんあるのでしょうね。

2007年02月13日

ブログについて

私は、立命館大学のアート・リサーチセンターでアルバイトをしています。
ブログのタイトルにあるように、根っからの文系であります。
(文系のくせに文章が下手なのはご愛嬌ということで。)
いつも紙の切り貼りをしていますが、
ゆくゆくは保存管理もできるようになりたいと思っています。
ということで、文系の頭なりに「保存」や「科学」に近づこうと日記を書いている次第です。
ですから、やっている実験は、科学と呼ぶには程遠いものです。
数字を見ると拒否反応を示す私には、道のりは険しい…
でも「紙と仲良くなること」なんだと思えば、紙に纏わることをいろいろと知りたくなるものです。
どうぞ、私のあーでもないこーでもないともがく様子を見てやってください。
はやく「だって文系なんだもん。」と言い訳できないくらいになりたいです。

2007年02月08日

「じわじわ」の恐怖

偏頭痛持ちで、最近それが日増しにひどくなり
医者に行くと、案の定「ただの偏頭痛」と診断されました。
肩や首のコリ、目の使いすぎも関係しているらしいのですが、尋常じゃない
実家の母に電話で相談すると、「シャンプーを変えなさい」と言われました。
そんなバカなぁ…頭が痛いからって短絡的だなぁと思って話を聞いていると
どうやら笑っていられないことのようなのです。

近所のお姉さんが、原因不明の頭痛に悩まされ、いろいろ調べていると
経皮毒という現象を知ったそうです。

御存知の方も多いと思いますが、私は初めて聞きました。
皮膚から吸収される、有害な化学物質のことで、
長い年月をかけて体内に蓄積され、なかなか体の外に排出されないといいます。
そのお姉さんは、シャンプー、石けん、化粧品、洗剤など、身の回りのあらゆる日用品を
天然のものに変えたそうです。それからだんだんとよくなっているらしく
母はそれを思い出して、私にアドバイスしたのでした。

そういえば、看護師をやっている友人は、
「産婦さんの羊水がシャンプーの匂いがした」と言っていました。
生まれる前の赤ちゃんが、すでに化学物質に浸されているとは、恐ろしい…。

今まで、合成着色料や保存料など口に入れるものに関しては気を遣ってきたつもりですが、
言われてみれば、皮膚から浸透することも容易に考えられます。
しかもそれは経口吸収よりもジワジワとゆっくり浸透し、排出されにくい
かなり質の悪いものです。

しかしこれは、私が扱っている「本」や「紙」にも言えることなのではないかなと思うのです。
ちょっとした染みや虫食いも、本紙の情報や真正性を失う点では恐ろしいですが、
目に見える変化なので、防いだり、保護したりすることができます。
ところが、置かれる環境によって起こる変化や、紙内部の得体の知れない変化は
わかりづらく、とりかえしのつかないことになりかねないのです。
最近、江戸後期の芝居番付を裏打ちしてもらう機会があったのですが、
見た目には丈夫そうなのに、触れるだけでボロボロと壊れそうになるのには
大変驚きました。
ジワジワ忍び寄る魔物は、気づきづらいことこそが恐怖だと感じました。

私の頭痛と経皮毒に因果関係があるのかどうかはわかりませんが、
怖くなったのでシャンプーとコンディショナーと石けんだけは
天然素材のものに変えることにしました。
気になる方がいらっしゃれば、詳しいサイトがありますので
御覧下さい。→経皮毒事典

2007年02月07日

結論を急ぐ前に…

1月26日の日記で「ロジンが溶けた」から「方眼紙が濡れた」と結論付けました。
その結論は、30日の日記で脆くも崩れ去ります。
ところが、結論に至る以前に問題があったのです。
K.さんからの御指摘で判明しました。

ロジンが溶けたのなら、十分に乾燥させた後に水のみで濡れるかどうかを確認しないと
私の言うような結論にはならないと。
その通りでした。
また、方眼紙を浸したアルコールと水の溶液にロジンが含まれているかどうかも
調べていません。
それで「溶けた」とは言えないのです。
ただの早とちりでした。申し訳ありません。
ここでその検証を行ってみます。

アルコールと水で浸した方眼紙を、十分に乾燥させました。
それに水を落としてみます。

結果は…

 

…濡れませんでした。

というわけで、やっとここで結論を言えます。
アルコールでロジンは溶けるが、
この方眼紙にはその公式が当てはまらない。

・この紙は中性紙であるからロジンは含まれていない
・ロジンが含まれていたとしても、ロジンをアルコールで溶かせない何らかの理由(物質)がある
といったことが考えられます。
それはこれからの課題としたいと思います。

結論を出す前に、その裏付けをとる。
当たり前のことができておらず、反省しています。
御親切にも御指摘くださったK.さん、ありがとうございました。
このことをバネに、今後はきちんと検証して参りたいと思います。
他の方々も、何かお気づきの点がございましたら、どうぞコメントに一言お願いします。