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2007年01月31日

虫の目で見る

   ←これ、なんだと思いますか?


実は、今まで補修作業に使っていたものなのです。

補修作業の中で繕いをすることが多いのですが、
本紙に皺ができてしまうと、しわ伸ばしをします。
ボードで本紙を挟んで、板を置き、その上に重石をのせて圧します。

ところが、業者さんが来られたときに、そのボードが目に留まり
注意されてしまったのです。「そのボードからは有害なガスが出ますよ」と。
こんな死んだようなボードからガスが出る!?
私はそのことにびっくりしてしまいましたが、
なんでも、ボードに入っている古紙のインクなどから出るらしいのです。
大変恥ずかしいことに、本紙に悪影響を与えるものを密着させていたということになります。

マイクロスコープで140倍に拡大してわかりました。
こんなにいろんなものが入っていたのですね…。
一見グレーなのに、カラフルすぎて衝撃を受けました。
反省します。

そういうわけで、これからはこれ→を使います。
その業者さんに教えてもらった特殊製紙の中性紙アーカイバルボードです。
フラットニングの方法と材料を変えて、これで資料も一安心。
おもしろいので、ついでにいろんな紙を見てみます。

  これは何でしょう? 茶封筒です。

  手漉き和紙

  こちらは機械漉きの和紙

  濾紙。さすが繊維の密度が高い!

  明治の和紙です。

   上と同じ紙の、色の付いた部分です。

 虫はいつもこんな風に見えているのでしょうか。
私より虫のほうが断然物知りかもしれません。

2007年01月30日

26日の日記訂正!!

ふと方眼紙のパッケージを見たときに
「王子製紙特抄中性再生紙使用」と書かれた文字が目に入りました。
25日の日記に書いた日本製紙の説明をもう一度読みます。

「サイズ剤」とはペン書きや、印刷するときのインクの滲み防止剤のことですが、
抄紙機(しょうしき)の発明以来、現在も広く松ヤニから作られるロジンが
使用されています。ロジンはそのままでは紙に定着しにくい性質のため、
定着剤として「硫酸バンド(硫酸アルミニウム)」を用います。この硫酸に
よって紙が酸性となり、年月と共に紙の繊維が焼けてぼろぼろになってしまうのです。

ロジン+硫酸バンドが使われるのは、酸性紙のみ?
中性紙や中性再生紙は何が使われるのでしょう?

また同じHPを引用します。

硫酸バンドを使用しなくても定着性のある「反応性サイズ剤」や、
硫酸バンドを使用しつつも中性に近い条件で働く「中性ロジンサイズ」といった中性サイズ剤が
開発されてきています。
こういったサイズ剤を使用することで紙が中性となり、繊維が劣化せず長い間の保存が
可能となります。

また紙には「填料(てんりょう)」とよばれる粉の成分を添加することで、
不透明性や表面の滑らかさを向上させています。
酸性紙では泡が発生してしまうため使用できなかった炭酸カルシウムを
填料として使用できることで、中性紙では白さや不透明性が一段と向上しています。

サイズ剤には、AKD(アルキルケテンダイマー)やASA(アルケニル無水コハク酸)などが
使用されているそうです。
ロジンではなかったのです!!(中性ロジンサイズだったら別ですが)
ということは、「松脂がアルコールに溶ける」=「紙が濡れる」とはならないのです。
偶然アルコールで濡れたとでもいうのでしょうか?
わからないので、yahooで「水  濡れない  紙」で検索をかけてみました。
そこで一番にヒットしたのが有限会社 資料保存器材のページです。

ちり紙のようにすぐに水に濡れる紙があれば、撥水剤でもあるサイズが効いていて、
なかなか濡れない紙もあります。一方、水は決して相手をすぐに濡らしてくれる液体では
ありません。コンサベーションで使う各種の液状の薬剤の表面張力と比べれば、
水はいかに相手を濡らすことの不得手な液体かがわかります。
とありました。また、
資料が水にもアルコールにも耐えられることを確認できたら、水とアルコール(エタノールやイソプロピル・アルコール)との混合溶液に資料を浸します。水よりもずっと表面張力が下がった溶液はすみやかに資料を濡らし、繊維の奥深くまで高速道路を一気に通します。
と書かれていました。
つまり、水よりも表面張力の小さい液体を紙にかけることで、「水のための高速道路」が作られるというのです!表面張力…考えも及びませんでした。
水が72.75mN/mであるのに対し、アルコールは22.55mN/mだから、
松脂を溶かすことに気をとられていた私が、たまたま用いたアルコールで紙を濡らすことができたわけです。
なるほど、納得できました。
26日の日記の結論を、ここで訂正いたします。

「中性紙」と「中性再生紙」の違い、
「中性サイズ剤」も気になりますが、次回に調べたいと思います。

2007年01月29日

あをによし賞

昨年暮れに、読売新聞社主催の読売あをによし賞が創設されました。
「文化遺産を最前線で守り伝え、特に卓越した業績を挙げた人たちを顕彰する」のだそうです。
対象は、縄文時代から江戸時代までの文化財を保存・修復する、個人・団体の活動となって
います。

なんで「江戸時代まで」なのだろう?
明治以降の文化財はだめなのか?

応募するつもりはありませんが、単純にそう思い事務局に電話で聞いてみました。
お答えは、「特に決まっていない」とのことでした。
ただ、近代化遺産となると数が膨大になるから目安として江戸で区切っているらしいです。
なので、明治以降のものを対象に扱っておられる方も応募できるみたいですよ!
どんな活動が表彰されるのでしょう?
6月が楽しみです。

2007年01月27日

紙の伸縮を見る

紙が伸縮することは周知の通りですが、その現場を見たことありますか?
私はないのです。
方眼紙を濡らし(やっと濡らせるようになりました)、目盛りの長さを測り、
伸び縮みを調べます。
今回使ったのは、アピカのB5サイズの方眼紙で、15cm×22cmの目盛表示が付いており、
単純に縦22cmの方を測りました。

濡らした直後
   
22.2cm。30秒足らずで2ミリ伸びました。

2分経過
   
22.6cm。

3分経過
   
22.65cm。伸びています。

5分経過
    
22.65cm。変わらず。

10分経過
   
22.75cm。伸びが悪くなってきた。

20分経過
   
22.75cm。10分後から伸びていません。

30分経過
   
22.75cm。どうやらこれ以上伸びないようです。

5~10分の間に最大7.5ミリまで伸びきってしまうようです。
これを乾燥させます。

乾燥後
   
21.8cm。伸びきった状態から、約1cm縮みました。

22cmだった方眼紙の目盛りは、
水を含むと7.5mm伸び、乾燥させると2mm縮むことを
この目で確かめることができました。
他のメーカーの方眼紙では、また違った伸縮をするかもしれません。
測った方、いらしたら教えてください。

2007年01月26日

紙を濡らす

方眼紙を濡らそうとするところで思わぬ足止めを食らいましたが、
サイズ剤、ロジンの存在がわかりました。

『大百科事典』(平凡社・1985年)を見ると
水に溶けず、アルコール、ベンゼンに溶ける。
熱をかけると100~135℃で融解する。
とあります。

ロジンの定着剤の「硫酸バンド」も気になりますが、
アルコールで溶けるなら溶かしてみよう!

ということで、松脂を用意しました。

これを削り、アルコールを入れます。
   

見事溶けました! 右の写真は、水を入れたもの。溶けていません。
   

これを確認し、早速方眼紙にアルコールをかけてみました。
   
明らかに水だけの場合と違います。
方眼紙を水に浸し、無事「濡らす」ことができました。

2007年01月25日

紙が濡れない

裏打ちをすると、本紙のサイズが若干大きくなってしまうことに悩んでいました。
そもそも、水分によって紙が伸縮することは知っています。
でもどのくらい伸縮するのか?と言われるとはっきりわからない。
よし、その現場をつきとめよう。
まずは伸縮のわかりやすい方眼紙を使って調べることにしました。
ところが…
方眼紙に水をかけるも、濡れてくれない。


補修用和紙だと、すぐに濡れるのに。

なぜ??

 

濡れない和紙があります。
浮き絵や日本画に使われる紙は、絵の具が滲んでは困るので、礬砂をひきます。
仮張が良い例です。
仮張を作る際、和紙にたっぷりと礬砂引きしました。

強度も増して、表面も均一になります。

そう、洋紙にも滲み止めがしてあるのです。
本やノートなどの印刷、インクが滲んでは困りますから。
サイジングと言います。
ただ洋紙の場合、礬砂ではなくて松脂=ロジンを加えるのだそうです。

「サイズ剤」とはペン書きや、印刷するときのインクの滲み防止剤のことですが、
抄紙機(しょうしき)の発明以来、現在も広く松ヤニから作られるロジンが
使用されています。ロジンはそのままでは紙に定着しにくい性質のため、
定着剤として「硫酸バンド(硫酸アルミニウム)」を用います。この硫酸に
よって紙が酸性となり、年月と共に紙の繊維が焼けてぼろぼろになってしまうのです。
(日本製紙株式会社HPより)

このロジンのせいで濡れなかったのです。
では濡らすにはどうしたらよいか?
次回に続く。