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NEWS LETTER
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【ISSUE.005】
京都の映画が描いた「日本」像
京都の浮世絵 - 合羽摺版画・祇園練物 -

本稿では、本COEのエンターテインメント関連研究の一部を担当する、2002年に発足された「知能エンターテインメント研究室」の研究活動を紹介する。
 本研究室は、現在、COE研究専念教員である筆者1名及び学生24名(修士課程の学生14名及び学部生10名)で構成されている。人工知能の観点から、ユーザの創造性を促進するようなコンピュータゲームといった双方向エンターテインメントを創出するための基盤技術を研究・開発しており、2つの研究テーマ「コミュニティマイニング」及び「人工知能の応用」、並びに1つの開発プロジェクト「オンラインゲーム THE ICE」を3本柱に世界最高水準の研究教育の拠点を目指す。
 また、社会に対して研究室出身の人材及び研究成果で貢献できるように努力しており、研究室生の進路先は表1に示したようにゲーム開発企業やシステムインテグレーション企業などが挙げられる。


ここでは、前記の2つの研究テーマ及び1つの開発プロジェクトについて述べる。

新たな経済・文化モデルを示すものとして、オンラインゲーム、Blog、チャットルームなどのオンラインコミュニティが注目を浴びつつある。これらの市場は急速に拡大すると予測されており、この市場を勝ち取るには、ユーザにあったコンテンツ作りとコミュニティの魅力を維持し続けることが不可欠である。主な副テーマは次の通りである。

キーグラフを用いたプレイヤーの分析:
プレイヤーの行動時系列をキーグラフ(図1)という可視化ツールを用いて分析する研究である。可視化の能力を向上させるために時系列データの前処理の提案及びキーグラフの改良を図る。

掲示板におけるユーザの可視化:
電子掲示板におけるユーザを木のメタフォアを用いて可視化(図2)することで、影響のある人物やユーザ間の関連を簡単に抽出できるかを検証する研究である。

隠れマルコフモデルによるボット発見:
プレイヤーがゲームから離れている際に点数稼ぎの目的で使用されるボットを隠れマルコフモデルを用いて自動特定する研究である。

チャットログからの人間関係抽出:
チャットのメッセージに含まれる共通単語に着目し、対話しているユーザを共通単語によって自動的に特定する。その結果に基づいてチャット空間におけるユーザ間の関係を抽出することを目的とする研究である。

自己組織化マップによるプレイヤーのクラスタリング:
行動時系列から似かよったユーザを自己組織化マップを用いて複数のグループに分ける研究である。処理能力を向上させるために時系列データの効率的な前処理法を模索する。

2.2 人工知能の応用
プランニングや事例ベース推論などの人工知能技術による物語の自動生成システムや感情をもつ自律型キャラクタについての研究・開発を進めている。目指すのは、自律型のキャラクタがユーザの感情や動作に対応してストーリーを展開し、ユーザがあたかもドラマの空間に主人公の一人として没入できるようなインタラクティブドラマまたは多人数参加型オンラインゲームの実現である。主な副テーマは次の通りである。

感情をもつ擬人化キャラクタの構築と検証:
ユーザが違和感なくやり取りできる、コンピュータによって制御されるキャラクタの構築を目指す。特に感情のモデル及びそのオンラインゲーム環境での検証法(図3)について研究する。

階層型プランニングによるキャラクタの制御:
各キャラクタが自らの役割を達成するための制御の手法について研究(図4)する。
特に階層型プランニングの適用を試みる。準最適なプランを得るためのプランニングの指標を模索する。

事例ベース推論を用いた物語の自動生成:
キャラクタへの役割の割り当てについて研究する (図5)。事例ベース推論に着目し、特に役割の類似度の計算法や役割の合成法を提案し、オンラインゲーム環境でそれらの手法を検証する。

生体情報によるゲームや物語の制御:
プレイヤーの生体情報によってゲームや物語の進行度合いを制御する研究である。
皮膚電動や心拍の情報を前処理する手法の提案、これらの情報を使用するコンテンツの開発、及びその有効性の検証を実施する。

キャラクタレベルの自動調節:
ユーザのレベルに合わせて、コンピュータによって制御されるキャラクタのレベルを自動的に調節することを目的とする。事例ベース推論に着目し、既存ルールの適切な選択法や新たなルールの生成法について研究する。


2.3 オンラインゲームTHE ICE

 このプロジェクトではTHE ICEというオンラインゲーム(図6)を開発している。
THE ICEは、プレイヤー同士のコミュニケーションを重視し、ゲーム内の雪合戦などのイベントを通じて、プレイヤーのプログラミングのセンスをさりげなく習得できる教育用ゲームである。また、先述した研究の実験台としても利用される。
本プロジェクトの参加者は大型クライアント・サーバシステムの開発及びシステム運用のノウハウが身に付く。最近の理工系の学生はものづくりやチームワークといった経験が少ないことからか、他の研究者に無謀とよく言われるこのプロジェクトで得た経験が研究室生の就職活動などの際に評価されているようである。


 議論の余地はあるが、本研究室のメンバーによる国内外の関連学会での研究成果発表及び筆者の委員としての活動の観点から、研究室の国内外の評価について論じる。

3.1 国内
 国内において最も関連のある「エンタテインメントコンピューティング(EC)」というシンポジウムに初回の2003年から毎回我々の論文が発表されてきている。更に、筆者は、本年度より2年間このシンポジウムの母体である情報処理学会EC研究運営委員会の運営委員として活動することとなり、来る9月に東京のお台場で開催されるEC2006において1つのオーガナイズドセッションを受け持つことが決まった。
 関連する学会として他にコンピュータゲームを対象とするゲーム学会がある。同学会については昨年の全国大会にて本研究室から5件の論文が発表され、今後も継続的に研究成果を発表していく予定である。

3.2 国外
 エンタテインメントコンピューティング全般に関して国際的に最も権威がある「International Cerence on Entertainment Computing (ICEC)」 (情報処理国際連合IFIPが母体)という国際会議にて2004年から毎回我々の論文が発表されてきている。筆者は、2005年の会議でSenior Program Committeeとして活動し、来る9月にイギリスのMicrosoft Research Cambridgeにて開催予定の第5回目の会議ではScientific Program Committeeとして活動中である。
 ICECのライバル的な存在として2004年から創められた「International Conferences on Advances in Computer Entertainment& Technology (ACE)」(Association for Computing Machineryが母体)がある。これまでこの会議に論文を投稿する機会を逃してきたが、今年は我々の論文が採択され、6月にアメリカのハリウッドで発表する予定である。
 コンピュータゲーム関連の国際会議で、2000年に開始されたGAMEONがある。この会議はEUROSISという欧州のシミュレーション学会が母体であるため、主に欧州の国で開催されてきたが、2005年より北アメリカ版のGAMEON-NAが別に開催されるようになった。 2005年からGAMEON及びGAMEON-NAのInternational Program Committeeとして活動してきた筆者は、会議の誘致に成功し、2007年の3月に初のアジア版となるGAMEON-ASIAを本学びわこ・くさつキャンパス(BKC)にて開催する予定である。


 筆者は,去る3月3日にBKCにて本COE主催の「データマイニング、仮想環境、オンラインコミュニティ」と題した国際シンポジウムを開催したので、これについて以下に報告する。
  本シンポジウムでは、ユーザの挙動を解析するための「データマイニング」という技術及びこの技術の「仮想環境」及び「オンラインコミュニティ」への応用を取り上げた。各分野の専門家による招待講演を交えてCOEの関連研究成果を発信し、手法の基礎研究及び実システム開発の両観点からブレイクスルーを探ることを目的とした。また、これを機に、アメリカにおいてデーママイニングの分野でNSFの予算獲得実績のあるLouisville大のKantardzic教授及びデータマイニング関連図書を数冊執筆した神戸大学の阿部教授との国内外の共同研究プロジェクトを発足させたい狙いがあった。
  シンポジウム当日は、本学国際産業工学特別コースの留学生らをはじめとした学内外の約60名が参加した。 BKCの拠点リーダーである八村教授によるプロジェクト概要紹介後、Louisville大学のKantardzic教授、本学のKryssanov助教授、神戸大学の阿部教授による招待講演、ならびにCOEメンバーによる研究成果報告3件が実施された。その途中にポストドクトラルフェローによるポスターセッションの研究成果報告も行われ、いずれも活発な議論(図7・8)が繰り広げられた。発表プログラムは表2・3に示す。
 その後の進展も合わせて報告する。筆者は、招待講演者のKantardzic氏及びKryssanov氏との共同研究をそれぞれ開始した。初期の研究成果を国際会議の論文としてまとめ、前記のICEC 2006及びE-businessの国際会議ICE-B 2006に投稿し、2篇とも採択された。阿部氏については、共同研究を打診する予定である。


筆者は発足から5年目に入っている知能エンターテインメント研究室の研究活動を述べてきた。これまでの反省点を踏まえて、今後は以下を重点的に実施していきたいと考える。

博士号取得者の輩出
研究室の博士前期課程の学生が志望の企業に就職でき、後期課程へ進学をしないような状況が続いている。対策として、社会人または国際学生に焦点を絞り、優秀な候補者を確保する予定である。

関連企業との共同研究
実際にニーズがある研究を徹底し、今年度から設置された本学の理工リサーチオフィスを活用して関連企業との共同研究を図る。

研究レベルの更なる向上
国内外の研究者とのネットワークを更に拡大し、それによって得た情報を研究に反映させる。

最後に、本研究室を発足した2002年には、エンターテインメントを対象とした研究は学問的にそれほど認知されていなかった。それにもかかわらず、 筆者のこの新しい分野への参入を奨励し、これまでご支援をいただいてきたCOEの関係者の皆様に感謝の意を表したい。


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