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NEWS LETTER
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【ISSUE.003】
舞踊のデジタルアーカイブ
モーションキャプチャ技術と身体動作処理プログラム

2004年12月9日、10日の2日間、立命館大学 衣笠キャンパスの「アカデメイア立命21」において、人文科学とコンピュータシンポジウム2004を開催した。本シンポジウムの主催団体は、情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会であるが、本COEではこれに共催として参加し、本COEのサブリーダである八村が実行委員長をつとめた。ここでは本シンポジウムについて簡単に報告する。

以下の文章は、本シンポジウムの趣意書からの引用である。まずはこれをご覧いただきたい。

情報処理学会・人文科学とコンピュータ研究会は、1999年に第1回「人文科学とコンピュータ」シンポジウムを開催し、その後「デジタルアーカイブ」を主なテーマとしたシンポジウムを毎年度開催し成功を収めてきております。
本研究会の目標は、人文科学研究における各種学術・文化資料/情報等を情報処理技術で取り扱い、当該分野の研究に寄与すること、またこのような活動を通じて得られた知見を情報分野へフィードバックすることであり、すでに、歴史・考古学・人類学・文学・芸術などの各学問分野からの、さまざまなアプローチが試みられ議論されています。情報学の人文科学への寄与、人文科学と情報学とのコラボレーションの場として、情報処理学会においても極めてユニークな存在になっています。このような研究活動においては、研究対象の資料をデジタル化し、保存・流通・共有することが基本となります。近年話題になっている「デジタルアーカイブ」は、そのためのプラットフォームであるべきですが、現在までのところ、技術指向、コンテンツの産業応用指向の色彩が強く、学術的な観点から資料を利活用する研究者、また技術を利用して情報を管理する資料管理者など人文系からの視点が欠けている傾向が見受けられます。また、情報資源の共有や活用をより実りあるものとするためには、人文系と情報技術のさらに緊密なコラボレーションが求められています。このような現状にかんがみ、本シンポジウムでは、デジタルアーカイブを用いた学術情報資源の共有・活用のあるべき姿と、それらを推し進める情報技術、制度、事例について研究発表を通じて議論を深めることとしたいと考えています。
以上の趣意書の文で、このシンポジウムの性格はお分かりいただけると思うが、一部の方にはややなじみの少ないシンポジウムかもしれないので、若干の補足をしておきたい。
まず、(社)情報処理学会は、情報科学、情報工学の研究者、情報処理技術の技術者により組織された日本のこの分野で代表的な学会である。現在2万5千人弱の会員を擁するといわれている。この学会には、より緊密な研究交流活動のための、テーマを絞り込んだ小規模の「研究会」が全部で35組織されている。これらの研究会の中で、人文科学とコンピュータ研究会はその名称のとおり人文科学と情報科学の境界領域をカバーする、ひときわ異色のものである。本研究会は設立後すでに15年以上を経ているが、登録会員数は常に300人以上を保ってきている。毎年4回のペースで、日本各地で研究会を開催しているが、1999年から、さらに年1回のシンポジウムを実施してきており、すでに6回を数えた。最近では、その愛称「じんもんこん」も広く人口に膾炙するようになってきた。
なお、本シンポジウムでは、2000年の第2回より、投稿論文の査読制を取り入れている。投稿された概要論文をプログラム委員を中心とする査読委員により査読し、おもに、シンポジウムの趣旨との整合性の観点から採否を決定した。採択されたものは、6〜8頁の本論文を提出いただいて、これらをまとめて、当日配布の冊子体の論文集を作成している。
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今回の統一テーマは「デジタルアーカイブ −デジタル学術情報資源の共有と活用−」 とし、広く関連の論文を募った。趣意書文にもあるように、デジタルアーカイブは人文科学の研究をサポートするための有用なプラットフォームであるべきであるが、学術的な観点から資料を利活用する研究者、また技術を利用して情報を管理する資料管理者など人文系からの視点が欠けている傾向が見受けられるしかしながら、多くの人文系データが、ネットで公開されるようになってきたのも事実であり、いよいよ真の、情報の共有と活用を議論すべきときにきたというのがこのテーマの意図である。
以下に、2日間のプログラムの概要を示す。今回採択された28件の一般講演はパラレルセッション形式により、2つの会場に分かれて行われ、それぞれで活発な議論が行われた。ここで個々の発表のタイトル・発表者を示す余裕はないが、セッション名から本シンポジウムの性格を読み取っていただくことができると思う。
また、ポスターおよびデモ形式のセッションでは、採択された5件の発表が行われた。ここでは、このような対面による発表形式の特徴を遺憾なく発揮し、質疑を展開することができた。

12月 9日(木)
10:00〜11:30 一般セッション1
セッション1−A 地理情報 3件
セッション1−B 3次元アーカイブ 3件
13:20〜14:50 一般セッション2
セッション2−A デジタル歴史学 3件
セッション2−B 色彩の記録と表現 3件
15:00〜16:00 一般セッション3
セッション3−A メタデータ 2件
セッション3−B デジタル・アーカイブのインタフェース 2件
16:10〜18:00 基調講演・招待講演
基調講演
「デジタル・アーカイブへの期待」
石井 米雄(人間文化研究機構長)
招待講演
“InterPARES : Archival Research into the Preservation
of Complex Digital Records”
Yvette Hackett(Project Archivist、
Library and Archives Canada)

12月10日(金)
10:00〜11:30 一般セッション4
セッション4−A デジタル古典学 3件
セッション4−B 人文科学のデータモデル 3件
13:00〜14:00 ポスター・デモセッション 5件
14:00〜15:30 一般セッション5
セッション5−A デジタル考古学 3件
セッション5−B モーションデータの記録 3件
15:40〜17:30 パネルディスカッション
「人文科学にとっての“デジタル・アーカイブ”」

基調講演は、国立民族学博物館、国際日本文化研究センターなど、独立行政法人化された研究機関を統括するものとして設置された、人間文化研究機構の機構長である石井米雄先生から、「デジタル・アーカイブへの期待」と題してお話を頂戴した。国立公文書館に設置されているアジア歴史資料センターにおいて石井先生が手がけられた、700万枚を超える歴史的画像(国立公文書館、外務省などの所有)のデジタル化とその公開の現状を中心に、今後のデジタルアーカイブ活用への期待を熱く語っていただいた。さらに今後は機構配下の5研究機関の資料のデジタル化と公開を構想しているということで、我々の期待をかき立てるものであった。
招待講演には、カナダから、ちょうど04年に国立図書館と国立公文書館が合併してできたLibrary and Archives CanadaのアーキビストYvette Hackett女史をお招きした。講演のタイトルは、”InterPARES: Archival Research into the Preservation of Complex Digital Records” というものである。InterPARESは、カナダを中心に展開されている国際的研究プロジェクトであるが、ここでは、日本の「デジタルアーカイブ」で行われているようなアナログ資料をデジタル化したものを対象とするのではなく、たとえば、ワープロなどで作成された政府系文書や、科学研究の記録など、最初からデジタルデータとして作成された記録のアーカイブにおける各種の課題、すなわち、真正性、同一性などの担保の仕組みなどを主たる研究課題としていることが説明された。今後のデジタル社会における、デジタル出版、電子政府などを視野に入れれば、これはまさに将来におけるアーカイブの大きな課題であると考えられるが、シンポに参加した日本の聴衆には耳新しいものであったと思う。
2日目の最後に行われたパネル討論「人文科学にとっての“デジタルアーカイブ”」についても簡単に記しておこう。これは、「デジタルアーカイブ」というものが、そもそも人文科学の研究にとってどういう意味を持っているのかという問題意識に立脚したものである前述した本シンポの統一テーマをさら根源的に問うものでもある。師茂樹氏(花園大学)の司会のもと、赤間亮氏(立命館大学)、川村清志氏(神戸学院大)、後藤真氏(大阪市大)、野村英登氏(日台交流センター)らのパネリストによる議論が行われた。ここでその内容を詳しく紹介する余裕はないが、特に、デジタルアーカイブは単に歴史文化資料の「保存」ということだけではなく、対象としている文物や行為に対しての解釈の固定化などの弊害もあることなどの問題提起も行われた。時間の関係もあり、フロアとの意見交換などの議論が必ずしも十分にできたとはいえないが、今後、デジタルアーカイブが人文科学者の間に認知され、彼らにとっての真のツールとなるためには、この議論は今後も継続的に続けていくべきだと感じている。
今回のシンポジウムの参加者数は延べ163名であった。この数は、過去の実績に照らしても十分な実績であった。また、立命館大学の本COE関係者からの論文発表は12件であった。本COEの活動状況を関係者の方々に広く知っていただくことができ、今回、共催とした意義は十分に発揮されたと考えている。
また、2日間の会期を通じて、会場内に企業展示コーナーを設置し、デジタルアーカイブ関連企業9社の展示を行っていただいた。休憩、コーヒーブレークの時間には、これらの展示を中心として、ここでも、活発な質疑応答が展開された。
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以上のように、本シンポジウムでは、デジタルアーカイブの今後を見据えるうえでの現状認識と問題提起および展望に関する議論を行うことができ、所期の目的を達することができたと考えている。なお、初日の夕刻には、キャンパス内のレストランにおいて懇親会を開催した。基調講演の石井先生、招待講演の Hackett先生はもちろん、本学の長田総長、坂本副総長、本COEの川嶋拠点リーダらの出席を得て、なごやかな歓談のうちに、今後の研究の展開や交流についてのさまざまな意見交換が行われた。こちらも、本シンポジウムの学術発表を補完するものとして大いに有意義な時間を過ごすことができた。

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