12 雛鳥 久我之助

絵師:三代目豊国
落款印章:豊国画
判型:大判錦絵
版元名:若狭屋与一
改印:申十一改
配役:久我之介…尾上梅幸 雛どり…中村福助
 
「妹背山婦女庭訓」山の段の一場面。親同士、領地の相隣関係にあるにもかかわらず義絶しているが、恋仲に陥っています。定高館の雛鳥の髪型は「吹輪(ふきわ)」と呼ばれ、華やかな花簪を付けており、姫を象徴する髪型です。一方、清澄館にいる久我之助は、経文を読んでおり、本図の右手に持つ巻物は、その経文であろう。「山の段」では、両家の間に流れている吉野川に隔てられ、互いに姿を見ることはできても、会話を交わすことはできません。互いのことを想って死んでいくという、悲恋の結末を迎える切なさが、二人の表情と見つめ合った構図によく表れています。

 【翻刻】

和歌の浦には名所がござる、一にごんげん、二に玉津嶋、三にさかり松、四にしほがまや、天のはし立、切戸の文殊、もんじゅさんはよけれども、切といふ字が気にかかる、サアサなんとしようか、どうしようぞいの
すみだ川には名所がござる、ぬしを三めくり、吾妻ばしにゑんのはし場をまつち山と、深きおもひはアノかねがふち、土手のさくらはよけれども、うつろふ色が気にかかる、サアサなんとしようか、どうしようぞいな
 
【補注】
「吹輪」は、大名の娘の正式な髪形である「下げ髪」に笄(こうがい)を巻きつけるようにして結われたものです。歌舞伎において「吹輪」、「花簪」、「赤い振袖」の三つは姫を象徴する代表的な組み合わせで、雛鳥にもその特徴がよく表れています。
(参)金沢康隆著『江戸結髪史』(青蛙房1998)