11 浄瑠璃御前 牛若丸

本作品は、中世後期の物語草子である「浄瑠璃物語」に登場する主人公源義経(幼名牛若丸)とヒロインである浄瑠璃姫の愛情を描いたものである。作品中には、牛若丸が所有する名笛「薄墨」を浄瑠璃姫が手で引き、上目遣いで牛若丸を見上げている。このシーンは「浄瑠璃物語」で外で笛を吹く牛若丸を館の中へ浄瑠璃姫が招き入れるところのようにも映るが、詞章から考察すると、分かれてしまう女の悲しみを表現していることが分かる。つまり、作品に描かれている二人の場面は、「浄瑠璃物語」十二段の内の第九段「御座移り」の段ではないかと推察する。また、作品中において牛若丸が歯を黒く染めていた(お歯黒)。お歯黒の文化は、日本の貴族特有のもので、主に既婚の女性に対してされるものであったが、平安時代末期より、男性、そして皇族や上流階級の貴族の少年少女もお歯黒をするようになった、という文化がある。牛若丸がお歯黒をして本作に登場しているのもその身分の高さを象徴するためのものであると推測できる。この作品の舞台は、配役と時期からみて、万延元年五月五日に江戸の守田で上演された「忠臣晴金鶏」(所作題は「四季文台名残花 、音曲は常磐津」であるという推測ができる。

「ひとこゑはつきが ないたかほとゝぎす いつしかしらむ短夜に まだ寝(ね)もたらぬ たまくらに男心は むごらしい 女ごゝろは そうじやないかたとき あわねばくよ/\とぐちな 心でないているわいな

「竹になりたやしちくだけ もとは尺八 中はふゑ すえはそもじの ふでのじく 思いまいらせ候かしく それ/\そふじやへ

参考サイト ArtWiki