立命館大学アート・リサーチセンター所蔵
浮世絵名品展 第二期 出品目録
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菅原伝授手習鑑 解説へ
初代歌川国貞(大判錦絵1枚)                                     UY0033
「俳優大入盃」「桜丸 沢村訥升」
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天保11年(1840)9月11日 中村座
すがわらでんじゅてならいかがみ
菅原伝授手習鑑 一番目三の切 賀の祝

桜丸〈1〉沢村訥升
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「俳優大入盃」シリーズは天保11年9月に江戸で興行された芝居に取材したもので、当センターでは六点所蔵している。盃の中には役者を描き、描かれた役者が自らの役名にちなんだ画賛を寄せている。
本図は訥升の乱れ髪から、斎世親王と菅丞相の娘苅屋姫の恋を取り持ったことで主君を陥れたことを悔いる桜丸が、父の白太夫と妻八重の前で自害する場面を描いたもの。この時の役者評判記は、〈1〉訥升の桜丸を「色気がこぼれるようだ」と評している。
盃の一部が黒く変色しているのは、丹が酸化したものであり、本来は美しい朱色であったと思われる。
画賛に「水船へさくらの浮くや不二筑波 訥升〈訥升〉」。


初代歌川国貞(大判錦絵1枚)                                     UY0034
「俳優大入盃」「梅王丸 嵐吉三郎」
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天保11年(1840)9月11日 中村座
すがわらでんじゅてならいかがみ
菅原伝授手習鑑 一番目三の口ヵ 車引(賀の祝)

梅王丸〈3〉嵐吉三郎
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桜丸と三つ子の兄弟の梅王丸役を勤めた〈3〉嵐吉三郎を描く。この絵の場面はその衣装から、「車引」か「賀の祝」に取材したものと思われる。梅王丸の顔の隈取には、桜丸とは異なり強さや善意等を象徴する紅を使った一本隈が用いられ、画賛にも「強きそたちかな」とある。
画賛に「鑓梅の日向に強きそたちかな 璃寛〈璃寛〉」。


初代歌川国貞(大判錦絵3枚続)        UY0119,0120,0121
「松王丸 市川団十郎」
「梅王丸 関三十郎」
「桜丸 尾上菊五郎」
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文政6年(1823)5月5日 市村座
すがわらでんじゅてならいかがみ
菅原伝授手習鑑 一番目三の口 車引のだん

松王丸〈7〉市川団十郎、梅王丸〈2〉関三十郎
桜丸〈3〉尾上菊五郎
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時平に遺恨がある梅王丸と桜丸の二人が、吉田神社に参拝する時平の一行とそれに従う松王丸に遭遇し、兄弟三人で時平が乗る牛車を引き合う場面を描く。梅王丸と桜丸がそれぞれに持っているのは、引き合った際に折れた牛車の轅。この後牛車を踏み破って時平が登場し、梅王丸と桜丸はその威に押され、幕切れとなる。三人の兄弟は揃いの童子格子の下に、それぞれの名前にちなんだ「松・梅・桜」の衣装をつけており、隈取も松王丸が二本隈、梅王丸が一本隈、桜丸がむきみと、それぞれの役柄に象徴する化粧法となっている。


三代目歌川国貞(大判錦絵3枚続)    UY0228,0229,0230
「松王丸 中村芝翫」「梅王丸 市川団十郎」
「時平 市川左団次」
「杉王丸 大谷馬十」「桜丸 尾上菊五郎」
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明治22年(1889)5月15日 千歳座
かがみやまわかばのもみじ
鏡山若葉☆

松王丸〈4〉中村芝翫
梅王丸〈9〉市川団十郎、時平〈1〉市川左団次
杉王丸〈3〉大谷馬十、桜丸〈5〉尾上菊五郎
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三つ子の兄弟が車を引き合ったあと、天下を狙う時平が登場し、引っ張りの見得で幕切れとなる瞬間を描いている。時平は典型的な公家悪の役であり、金冠を着し、顔には藍色を使った公家悪荒れの隈をとっている。三人の兄弟と共に描かれている杉王丸は松王丸と同じく時平の供についている舎人で、その時の一座の役者の組み合わせによって作られる役。これは、必ず白い水干に烏帽子という衣装をつける。明治期を代表する役者が並んだ、歌舞伎らしい華やかな場面。

三代目歌川豊国(大判錦絵3枚続) shiUY0304,0305,0306
「松王丸」
「梅王丸」
「千代」
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安政4年(1857)9月18日 市村座
すがわらでんじゅてならいかがみ
菅原伝授手習鑑 六幕目 賀の祝のだん

松王丸〈4〉市川小団次、梅王丸〈1〉河原崎権十郎
千代〈4〉尾上菊五郎
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白太夫の七十の賀の祝に三人兄弟とその妻達が集まるが、松王丸と梅王丸は互いに敵同士の主君に仕えているので、日頃の意趣から二人は喧嘩となり、父の愛木の桜の枝を折る。これは後に起きる桜丸の自害を暗示している。この絵に描かれた場面の後、筑紫へ流される主君の供を願い出た梅王丸は父の怒りをかい、松王丸は勘当されることになる。本図は室内での兄弟喧嘩を描いており、構図的にも珍しい。松王丸の妻千代は、刃物で互いに傷つけあわないようにと刀を預けられ、困惑の面持ちである。


歌川国周(大判錦絵3枚続)                UY0333,0334,0335
「寺子屋首実見之場」「松王 尾上菊五郎」
「源蔵 市川団十郎」
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明治29年(1896)3月6日 明治座
さんもんごさんのきり   すがわらでんじゅてならいかがみ
楼門五三桐 中幕 菅原伝授手習鑑

松王〈5〉尾上菊五郎、源蔵〈9〉市川団十郎
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この時は、寺子屋のみの上演。菅丞相の息子菅秀才を匿っている武部源蔵のもとへ、松王はわざと我が子小太郎を入門させる。菅丞相の首を差し出すようにとの命が下された源蔵は、菅秀才の身替りとして小太郎の首を討つ。その首が本物であるかの検視役として遣わされた松王は、我が子の首と知りながら顔色ひとつ変えずに菅秀才の首と断定。後、源蔵夫婦に心底を顕し、妻千代と共に息子の骸を連れ帰る。本図は我が子の首が入った首桶を前にする松王と、松王の心底を知らず偽首であることが露見するのではないかと身構える源蔵の緊張した一瞬を写している。ただし当時の劇評には、首実検の際に源蔵は刀に手をかけなかったとある。病中という設定のため、松王は五十日鬘に病鉢巻を巻いている。

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