上方の浮世絵師・西川祐信(1671~1750)による一条戻橋の場面を描いた作品である。渡辺綱がある晩一条堀川の戻橋東詰で美女に出会い、五条あたりまで送ってほしいとの頼みを受け、女を馬に乗せたところ、女は鬼に変じ、綱の髻を摑んで住家の愛宕山に飛び去ろうとしたが、綱は頼光から預かっていた名刀・髭切で鬼の腕を切り落とし、難を逃れた。本作は馬上で本性を現した鬼が綱の髻を摑み黒雲とともに飛び去ろうとする姿を描く。
鬼女は綱の髻を摑んで飛び去ろうとしたところを綱が髭切で腕を切り落とし、鬼はそのまま愛宕山へと飛び去り、綱は北野天満宮の回廊の上に落ちたとする説もある(『絵本武者金剛力士』)。その後、綱は主君の頼光に事の次第を報告し、安倍晴明の占いに従い、自宅で物忌みに服していたところ、綱の養母が訪ねて来て、綱が櫃に隠していた鬼の腕を養母に見せたところ、養母は鬼の姿に変身し、「これは私の腕だ」と言う。養母の正体は一条戻橋で綱に腕を切り落とされた鬼で、鬼は切られた腕を奪い、屋根の破風を蹴破り虚空へと飛び去っていった。
鬼女が住家としていた愛宕山は都の戌亥(西北)の方角に位置し、天狗信仰のさかんな場所であった。また、鬼女の正体を宇治の橋姫とする説もあり、『平家物語』の剣巻では、戻橋の前の項で宇治川で鬼となった女房の話がおさめられている。(I)
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