仏塔の源流:バージャー石窟

バージャー石窟 第12窟
マハーラーシュトラ州、インド
紀元前2世紀~前1世紀


 仏教石窟は、北インドや西インドで雨期となる6~10月に、僧侶たちが大雨や河川の氾濫を避けて、自然にできた洞窟などに滞在し、修行や議論などを行う夏安居(げあんご)が、そのはじまりとされています。時代が進むと、信者の寄進をうけて、僧侶の滞在施設や、仏塔を立体的かつ精緻に洞窟内に彫刻するものも出現しました。そのうち、石窟内に仏塔を彫り出したものは、チャイティヤ窟と呼ばれています(サンスクリット語「チャイティヤ」という言葉にも、仏塔の意味が含まれます)。

 上にお示ししたバージャー石窟の第12窟も、仏塔を彫り出したチャイティヤ窟です。造営の開始は紀元前2世紀末ころに遡り、インドに現存するチャイティヤ窟として、最も古い作例のうちの一つと考えられています。
 第12窟の大きさは、その最大幅が約8m、入り口からの奥行きが約18m、床から天井までの高さが約8mで、奥に彫り出された仏塔は、その直径が約3.3mあります。
 仏塔は、地上に建造されたものと同様に、半球状になる覆鉢の形状が確認できますね。この第12窟のさらなる見どころとして、外璧の上方に彫刻されたヴェランダの様子など、当時おそらく存在していた木造や石造などの地上の建築物を模倣しつつ精緻な彫刻を施している点があげられます。また、石窟内のアーチ状天井部分には本物の木材も使用されており(この木材は造営当初まで遡る可能性が指摘されています)、やはり、木造などの寺院建築を模倣しようとした意識が窺えます。

 先ほどの第12窟から、少し離れたところには、下図のように、直径約1.6~2mの小仏塔群を彫り出したテラスがあります。合計で14基あり、みな、第12窟に近い時期に造像されたようですが、覆鉢部分の曲線が、それぞれ微妙に異なっています。覆鉢の形状が、厳密に規定化されていたわけでは無かったようです。インドでは、釈迦以外に高僧の遺骨を納入した仏塔も造像されたようなので、これら小仏塔群は、もしかすると、そのような性格の仏塔なのかも知れません。

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