『九想詩諺解』板木
『九想詩諺解』板木(鏡像表示) 元禄7年(1694)
横83.8×縦22.5cm
立命館大学アート・リサーチセンター所蔵(arcMD01-0716)

仏教には、死屍が朽ち果てていく様子を観想し、現世への執着を断ち切る「九想観」(九相観)という修行方法があります。『大智度論』や『摩訶止観』にすでに九想は示されており、中国や西域では死屍を観想する絵図や詩が育まれましたが、日本にも流入し、多くの絵画・絵巻・詩などが制作されました。17世紀以降には、九想図、九想詩に関連した本が何点か出版されています。そのうち、展示品は伝蘇東坡作「九想詩」に注を施し、九想観を挿絵で示した元禄7年(1694)刊『九想詩諺解』の板木です。九想観の分け方は諸書により一定ではありませんが、本書上巻では、新死想、肪腸想、血塗想、膿爛相、蓬乱想、噉食想、青瘀想、白骨連想、骨散想、古墳想に分けられています。さらに下巻では、諸文献を引きながら無常観・不浄観にも触れています。宗教上の観想が本来の趣旨ですが、人間の肉体や生死、グロテスクへの興味、さらにそれらをどう表現するかといった観点からも人々に享受されてきたモチーフと言えるでしょう。


『九想詩諺解』板本 元禄7年(1694)
立命館大学アート・リサーチセンター所蔵(arcBK01-0176)

参考文献
山本聡美『九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史』(2015、角川書店、角川選書556)

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