凧絵「稲垣小太郎」の板木

凧絵「稲垣小太郎」板木(鏡像表示) 明治15年(1882)頃
横33.2×縦45.2cm
個人所蔵

中国から日本に伝わったと考えられるものの一つに凧があります。江戸時代には庶民の遊びとして定着しており、上方では「いか(のぼり)」、江戸では「たこ」と呼ばされていたようです。その呼称が示すように、当時の凧といえば、イカやタコを想起させる形状でしたが、やがて全国各地で様々なバリエーションの凧が生まれるに至りました。その一つに、四角い形状で、絵画や「龍」などの文字を表現した角凧(かどだこ)があります。凧絵は凧絵師によって手描きされるのが基本ですが、中には板木によって輪郭線を摺り、手彩色を加えるものもありました。幕末から明治にかけて、武者絵や役者絵といった浮世絵からの影響が見られるようになっていきます。
展示品は明治15年(1882)9月に、東京・春木座で上演された「桶狭間鳴海軍談」(稲垣小太郎<1>市川右団次)に取材した役者絵を摸した凧絵の板木です。凧絵は役者絵の構図をさらにクローズアップして採用していますが、凧絵は役者絵よりも描線が太く、髪の毛の描写なども粗くなっています。凧(凧絵)については、民俗学の立場からの研究が進展してきましたが、木版という観点からの研究は、まだこれからといえるでしょう。

参考図:凧絵が模倣した錦絵

周延筆「稲垣小太郎<1>市川右団次」
明治15年(1882)9月21日  東京・ 春木座「桶狭間鳴海軍談」
大判錦絵
都立中央図書館(M448-004-04)

参考文献
斎藤忠夫編『江戸凧絵史』(1980、グラフィック社)

arrow_upward