合羽摺浮世絵の板木

長秀画「あふみや くま」板木(鏡像表示) 寛政~文化頃(1789~1818)
15.6×縦32.0cm(細判合羽摺)

多色摺の浮世絵といえば、一般には錦絵摺が想起される場合がほとんどですが、京都・大坂といった上方では、合羽摺と呼ばれる技法も長く用いられていました。錦絵摺の場合は主板(キーブロック)で摺った輪郭に色板で色を摺り重ねていきますが、合羽摺に色板はありません。合羽摺は渋紙を用いた型紙を用意し、色付けが必要な箇所に刷毛で色を塗っていきます。展示品は細判という判型、長秀という絵師から判断して、合羽摺の板木と考えられます。合羽摺の板木は、色板による重ね摺りが必要ないため、展示品には、錦絵の板木に見られる見当がありません。馬楝で強く摺るために厚みのある紙を用いる錦絵とは異なり、刷毛で塗るだけの合羽摺の紙は薄く、残存率が低いのも合羽摺の特徴で、展示品の板木で摺られた版画もまだ見つかっていません。錦絵の板木も残存稀少ですが、合羽摺の板木はそれ以上に稀少であり、本展示品以外に現存は報告されていません。

参考文献
『合羽摺の世界』(2002、財団法人阪急学園池田文庫

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