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ARC所蔵「酒呑童子絵巻」をめぐる大江山伝説の総合的研究

 [書込]

[ARC所蔵「酒呑童子絵巻」をめぐる大江山伝説の総合的研究]
2016年5月26日(木)

ARC立命館酒呑童子絵巻比較研究

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大江山伝説についての5巻の巻物、17世紀

立命館大学アートリサーチセンター2016年度共同研究プロジェクト概要

ヘレナ・ホンコオポヴァー、プラハ、2016年5月26日

このARC共同研究プロジェクトは、プラハのプライベートコレクションに所蔵されていた未だに発表されていない17世紀の5巻の絵巻物酒呑童子絵巻についての研究です。 もともとは高名なアメリカの収集家であり、ボストン美術館(MFA)の創設者の一人であるウィリアム・スタージス・ビグロー(1850-1926) の所有でしたが、彼が1900年前後にボストン出身の友人家族にこの作品を紹介しました。作品の状態が少し劣化してしまっているとはいえ(紙の折り目)、この貴重な巻物のセットが2015年に京都立命館大学のアートリサーチセンターの所蔵となるまで、この一族が何代にも渡ってこの作品を極めて良好な状態で保管してきたことは誇るべきことです。何世紀にも渡ってアメリカとヨーロッパで保管され親しまれたのちのこの絵巻物の里帰りの目的は、この作品を後世にまで遺すための日本でしかできないメンテナンスを行い、またその適切な修復・保管方法を見つけることでした。その上この絵巻物には所有者により文章の完全な英語訳(詞書)が付属されていました。注釈付きの英語訳はもともとは手書きで5冊の冊子、総計97ページにわたって綴られています。おそらくエルネスト・フェノローザ(1853-1908)によって1885年くらいに書かれたものですが、現在まで正確な年代はわかっていません。

酒呑童子は日本の神々(善神・氏神)たちと鬼神との戦いの伝説を題材にしたものです。このテーマは日本文学の歴史の中で形を変えて語り継がれ、また能や歌舞伎の題材としても用いられていますし、絵巻物、奈良絵本、御伽草子、屏風、扇、印書、浮世絵さらには彫刻、漆塗りの箱の絵柄、鍔根付、絵葉書などの様々な種類の芸術作品に描かれています。

酒呑童子の物語は2つの異なる古代の伝説からなり、鬼神の居所によって2つの物語に分かれています: 1番目は伊吹山の鬼神としても知られている酒呑童子とその仲間の鬼たちの悪行を含む伊吹山物語です。2番目は大江山鬼神退治の物語で、以下の歴史上の武士たちの武勇伝を扱っています: らいこうとしても知られている源頼光(944-1021)とその四天王: 頼光の筆頭の渡辺綱 (953-1025)、坂田金時または金太郎(?-1017)、卜部/平季武 (980?-1022)そして碓井貞光 (すなわち平貞通954?-1021)です。大江山の鬼神を倒すよう勅命を受けた屈強な武士の名前は平井/藤原保昌(またはほうしょう958-1036)。6人の武士たちは強力な詔勅によって守られてるのみでなく、各一族の守護神である岩清水八幡(頼光)、住吉(綱、金時、貞光、季武)、熊野(保昌)の氏神たちによっても守られます。

これらの5巻の良好な状態で保存された美しい細部にわたる絵画(細密画) (立命館ARC)には英雄たちの冒険の道中や、鬼神を倒す場面、囚われの京都の乙女を解放する場面、その後の盛大な京都への帰還の場面が描かれています。絵の間に散りばめられた美しい詞書 (おそらく朝倉重賢の筆になるもの)は25cmの長さの段で、32.5cmの雁皮紙の巻物に書かれており、金と銀の抽象的な自然のモチーフで背面が装飾(裏表金銀金泥仕上げ模様)されていますが奥付はありません。この巻物の狩野派の画家は特定されていませんが、書と絵の両方が日本、アメリカ、そしてヨーロッパに残っている類似した巻物との比較研究の対象となります。とりわけ、大江山物語の2巻の1374年以降の大江山絵詞 (香取本、逸翁美術館蔵)と狩野元信の絵の1522年の伊吹山物語の3巻(古法眼本、サントリー美術館蔵)がそれにあたります。もしその他の日本絵巻の所有者が美術品を公開すれば、ARCは新しい絵巻データベースを作成することが可能になり、それによって特別な伝統に興味を持った学者や一般の人たちが高画質の画像の豊富な基本情報データを享受できることになります。

また、注意深い保管方法によって絵巻の寿命を延ばすという目的の他にもこの比較研究の目指すところは英語とフランス語に翻訳された文章を含む絵巻物の完全版を出版することにあります。また、研究チームの1員がビグロー家に近しい家族の後継者であるため、本の中のエッセイで未だ知られていないビグローコレクションの部分に光を投じることができるでしょう。2016年のリサーチは大江山伝説の基本調査を主なテーマとしています: この美術作品の修復のベースとなる研究チームの作成、方法の確立、5年間にわたる研究の重量事項の決定です。

この酒呑童子絵巻のARC立命館共同研究プロジェクトは、一刻を争う長期の精巧で高価な修復作業が必要となるため5年間にわたって行われる予定です。また酒呑童子を題材にした古典籍の日本語と英語のリサーチデータベースの作成を計画しています。さらに重要なのは画像による絵巻物のデータベースをデジタルヒューマニティースという概念の国際的実施についての研究に利用されている立命館大学のデータベースに加えることです。しかしながら主な目的はこの5巻の巻物全てを元の状態に修復し、この貴重な美術作品を後世に残すことにあります。この研究の日本の伝統における美術的また文学的な位置の比較研究が終了した時点で、この作品の来歴と19世紀に発見されたフェノローザの手書きの英語版オリジナルの文章の日本語の音訳、英語とフランス語の翻訳を含む写真入りの本を出版する予定です。おそらくこのオリジナルの翻訳作業を手伝ったのは岡倉角蔵(1863-1913)ではないかと推測されています。 この研究結果を2020年までに出版し、東京オリンピックの開催に合わせてこの作品を公開できればと思っています。また、この絵巻を日本の重要文化財として登録するよう申請する計画です。

I : 32,5 x 1634 cm - 5 つの絵 - 一条大納言と占い師安倍晴明の京都での相談図から大江山ごいまで

II : 32,5 x 1446 cm - 6 つの絵 - 氏神との相談から大江山の酒呑童子の宮殿に入るまで

III: 32,5 x 1382 cm - 6 つの絵- 二人の乳母を引き連れた酒呑童子との遭遇と食人祭りからあとで毒入りの酒に酔う鬼まで

IV : 32,5 x 1270 cm - 5 つの絵 - 二人の乙女の身元が明らかになる場面から六壁の鬼との勇敢な戦いまで

V: 32,5 x 1517cm -5 つの絵 - 酒呑童子の頭を切断する場面から都への盛大な勝利のパレード まで ・行列は2.81メトルの長い図

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[ARC所蔵「酒呑童子絵巻」をめぐる大江山伝説の総合的研究]
2016年4月 1日(金)

代表者:Lecture at the Anglo-American University and Charles University in Prague Helena Honcoopova

 2014年度にARCが購入したウイリアムス・スターシス・ビゲロー旧蔵「酒呑童子絵巻」は、数奇な運命を経て、京都に里帰りした。この絵巻がなぜ、ボストン美術館に収蔵されず、アメリカからヨーロッパでの戦時下をくぐり抜け、プラハに移動し、最終的にARCの所蔵となったのか、その経緯をさぐり、ビゲローコレクションの知られざる一面を明らかにする。
 また、本絵巻は、5巻本であり、他の伝本よりも重厚な内容となっている。伝存する他の絵巻との比較により本絵巻の特徴を明らかにするとともに、新たな発見をも期待できる。さらには、本絵巻を中心にすえ、さまざまに変化していった大江山伝説の種々相ついても、分野を横断して明らかにしていきたい。