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2008年12月17日

第14回「人文科学とデータベース」

當山日出夫

2008年12月13・14日と、同志社大学の文化情報学部を会場にして、第14回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」が開催された。

このシンポジウムの成り立ちから、今にいたるまでの経緯を簡単に説明しておきたい。このシンポジウムも、日本における人文情報学のあゆみの一つだからである。

かつての重点領域研究「じんもんこん」の一つのセクションとして、このシンポジウムは始まった。第1回は、大阪電気通信大学。その後、「じんもんこん」のプロジェクトは期限を迎えることになったが、このシンポジウムだけは、有志があつまって存続させようということで、継続している。恒常的な組織があるというものではなく、毎年、関係者が相談して、そのつど、会場校と実行委員会を設定しながら、運営してきている。

そこで、今回の「人文科学とデータベース」シンポジウムである。例年とは違い、やや異例の展開であったことは確か。論文募集が、開催のぎりぎりになってから。そのせいか、例年よりは、参加者の数もやや少なかった。

だからといって、そこで発表された内容がおろそかなものであったわけではない。注目すべきいくつかの研究発表があった。

私(當山)の視点からは、次のふたつの発表。

「同志社校地内 歴史的建造物のデジタルアーカイブ化にむけて」
中谷正和さん(ほか)

これは、現在、同志社中学の管理にある、今出川キャンパスのチャペルについての話し。いわゆる歴史的建造物(文化遺産)のデジタルアーカイブ化である。この発表の質疑応答のとき、次のような質問があった。同志社中学出身の先生から、「このチャペルは、同志社中学では、日常的につかうものである。毎朝、ここで礼拝があってから、授業がはじまる。記録に残っているのは、特別に講演会や行事があったようなときの写真など。むしろ、通常の日常的なことは資料・史料として残っていない。このような側面にも注意すべきではないのか。」

この質問は、重要な意味をもっていると思う。文化遺産のデジタル化といっても、それが、日常的にはどうであるか、という観点は、これから需要になってくるであろう。

「浮世絵の計量分析」
村上征勝さん

村上さんは、現在、同志社文化情報学部の学部長(以前は、統計数理研究所)。江戸期を代表する何人かの浮世絵について、その顔の形状を計量的に分析しようというもの。なお、サンプルデータは、日文研の早川さんが選んでいるよし。本グローバルCOEにおいて、浮世絵研究は、中核的存在である。いろいろなアプローチがあると思うが、計量的な手法もまた、その一つである。その方法への賛否はあるかもしれないが、発表を聞いてみる価値はあると感じた次第。

なお、この発表では、写楽の作品について、役者絵として「男性・女性」を描き分けながらも、同時に、その「役者」の特徴も、描き分けている、ということが、計量的な分析から明らかになっていると報告があった。(学生の卒業研究)。

その他、興味深い内容の多い、シンポジウムであった。このシンポジウムは、次年度(2009)は、神戸大学での開催がすでに決まっている。

當山日出夫(とうやまひでお)
GCOE(DH-JAC)客員研究員
 

2008年12月14日

JADS秋季研究発表会参加報告

當山日出夫

2008年12月6日、アート・ドキュメンテーション学会の第1回秋季研究発表会
がおこなれた。本GCOE関係では、次の発表があった。(プログラム順)

【発表2】當山日出夫「文字を残すための序論的考察」
【発表5】金子貴昭「版木資料のデジタル・アーカイブについて」
【発表7】赤間亮「英国V&A博物館とスコットランド国立博物館所蔵浮世絵
のデジタルアーカイブ」

これらの発表要旨および予稿集(PDF)は、アート・ドキュメンテーション
学会のHPから閲覧可能である。

アート・ドキュメンテーション学会(JADS)
http://www.jads.org/

2008年秋季研究発表会
http://www.jads.org/news/2008/1206.html

発表の詳細は、上記のHPをみていただきたい。ここでは、この研究会に参加
しての個人的感想をのべておきたい。

まず、今回のこの研究集会は成功であったと言ってよい。今回の研究会が開催
になった背景としては、この学会での発表希望者の増加がある。今年(200
8)6月の京都国際マンガミュージアムでの大会において、数多くの発表希望
があった。それをうけて、研究発表の機会を増やす目的で開催となった。

会場が、印刷博物館(東京、凸版印刷)ということもあってのことかもしれな
いが、予定した人数よりを上回る来場者であった。総計で、約70~80名と聞
いている。これは、この学会「アート・ドキュメンテーション」について、新
しい関心のたかまりの反映であろうと推測する。

次年度(2009)に、この学会は創立20周年をむかえる。20年前といえば、パ
ソコンがようやく普及しだした時期である。インターネットの普及や、いわゆ
る「デジタルアーカイブ」の登場は、その後のことである。いまや、ネット上
に様々な学術情報が存在し、また、博物館・美術館などの学芸の日常業務にお
いても、コンピュータは必須となってきている。

デジタル化したデータ(美術作品や図書など)を、研究者はどのように効率的
に利用するか、また、博物館・美術館はどのようにユーザに提供するか、美術
館・博物館と研究者をふくめて、総合的に考えなければならない、新しい時代
をむかえているといえよう。この意味で、この学会の今後の動向には、注目し
ておかなければならないと、思う。この学会は、日本の文化・芸術の研究にお
いて、その公的な所蔵機関である、各地の博物館・美術館と交流の機会を得る
ことのできる、絶好の場所でもある。

なお、アート・ドキュメンテーション学会の次年度(2009)の大会は、本GC
OE拠点である、立命館ARCでの開催が決まっている。関係する方々(先生方、
また、学生・PDの方々など)の、積極的な参加を期待したい。また、大会の
開催にあたって御協力を願う次第である。

當山日出夫(とうやまひでお)
GCOE(DH-JAC)客員研究員

 

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