摺師・五代高橋新治郎

摺師・五代高橋新治郎(1929~2004)は、東京都文京区の神田川流域に工房を構えた摺師である。創業は安政年間(1854~1860)とされ、初代から3代目までは高橋倉之助を名乗った。戦前まで活躍した4代目の高橋春正は写楽好きで知られており、晩年は彫師・3代目大倉半兵衛と組んで写楽作品の復刻に取り組んだ人物である。戦後に5代目となった新治郎は昭和60年(1985)に工房を新築、その際に所蔵板木を総ざらいする機会を得て、4代目が取り組んだ写楽6作品の復刻板木を見出し、自身も写楽作品の復刻に取り組む意を固めたという。新治郎はその6作品に加え、彫師・石井寅男と組んで新たに8作品を復刻、『写楽大判大首絵額装版』(山口桂三郎監修、岩崎書店刊)として世に送り出し、好評を博した。後の展示品解説に述べるとおり、新治郎の活躍は絵画作品にとどまらず、日用の品々にまで渡っており、伝存する板木にもその傾向が表れている。生前、新治郎は神田川の氾濫によって板木が水に浸かるのをおそれ、危険が及ぶたびに板木を避難させていたという。没後も新治郎旧蔵の板木はご遺族によって大切に保存されてきたが、平成23年(2011)年、ご遺族の意志により、その大部分が本学アート・リサーチセンターに寄贈された。

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